飲みすぎ注意報
玉木洋二は残業続きの疲れたサラリーマンだ。今日も今日とて残業を終えて一人暮らしのオンボロアパートへと帰っていく。周囲を見ればいちゃつくカップルが目に入る。妻はおろか彼女すらいない玉木はかれこれ職場とアパートを行き来するだけの生活を続けていた。そんなある夜のこと、寝ている玉木のもとに訪問者が現れて…
けばけばしく光るネオンの光。夜の街を歩く男と女の姿。すれ違う人の中にはまだ成人しているか怪しい若者の姿もある。
玉木洋二は仕事帰りの疲れた体を引きずりながら、酒臭い息で歩く親父やけたたましい声で騒ぐ男女のカップルが道の隅で絡み合うのをなるべく見ないように急ぎ足で歩いていた。
洋二の家はこの繁華街の中にある築50年近くのオンボロアパートだ。家賃がとても安く、一人暮らしをするには十分のスペースがあったため即入居を決めたのだが、キャバクラや飲み屋が立ち並ぶ道を毎晩のように歩かなくてはならないのが難点であった。
――いいよな、遊ぶ余裕があって。こっちは残業続きで彼女すらいねーっつうの
道端でじゃれあう男女に心の中で毒づきながら、ようやく見えてきたアパートに急ぎ足で向かった。
自分の部屋の扉を開けて、シャワーだけ浴びると何も食べずにベッドの上に倒れこむ。
――明日は休みだっけ…疲れた。寝る…
あっという間に睡魔が洋二の瞼を閉じさせた。
疲れがたまっていたのだろう。掛け布団もかけずに眠りについた。
ドンドン、ドンドン。
どれくらい眠った頃だろうか、洋二は扉が叩かれる音にうっすら目を開ける。
寝ぼけ眼でベッドに投げ出したスマートフォンを探ると、時刻は深夜一時を回るところだった。
――誰だよ、こんな時間に
連絡もなしに深夜訪問してくるやつにろくな人間はいない。
そう思い居留守を使おうと目をつぶり直すが、いくら待っても扉をたたく音はやまなかった。
「たくっなんだよこんな時間に…」
居留守をしようと思ったが、しつこく鳴らされる扉の音に腹が立った。洋二はベッドから起き上がると、小さく毒づきながら玄関まで向かう。
一言文句でも言ってやろうと勢いよく扉を開けた。
「誰だよこんな夜中に」
うるせえなと続けるつもりだった。
だが言葉よりも早く洋二の身体に衝撃が走った。
柔らかくて暖かい感触が洋二の身体を後ろへと押し倒す。玄関の固い床に尻を打ち付けて悲鳴を上げそうになるが、そうしなかったのは自分の胸の中に飛び込んでいたものの方がよっぽど衝撃的だったからだ。
「あ~~洋平君ようやく開けてくれた~~もうずっと私待ってたんだからねえ~~」
甘ったるい香水の匂いと、鼻に来る酒の匂い。
茶色の髪が洋二の胸の中でさらさらと流れ落ちていく。
玄関から飛び込んできたのは泥酔した女だった。
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