愛犬ワンコ (Page 2)
「美味しい。いつもありがとう」
「いえ。元気が出たなら、何よりです」
「こんなに美味しいもの食べたら、元気でないわけないですよ」
彼はいつもより多めに卵を使った卵焼きを頬張りながら、ニコニコと笑った。
さっきまで子供のように泣いていたのが噓のように、腫れた目を細くしている。
自分の手料理を食べて元気になってくれる人は、彼だけだ。
まずいと言われたことはないが、彼以外に美味しいと言われたことも記憶にない。
遠い昔に、元気だった実父に褒められたことが不意に脳裏に蘇った。
そう言えば実父も彼と同じように犬が好きで、一子は彼と一緒に散歩に行くのが大好きだった。
だから彼とワンコを初めて見たとき、声をかけずにいられなかったんだろう。
「……たくさん食べてくださいね。卵の消費期限が今日だったんで、あるだけ使っちゃいました」
「ああ、すみません。じゃあ、遠慮なく」
彼はまたニコニコと笑って、卵焼きとご飯を頬張った。
彼の笑顔を見ていると、心が休まると同時に胸の奥がキュンとなる。
「あ、あの、一子さんも食べていってください。えと、それくらいの時間は、大丈夫ですよね?」
「はい」
ホッとしたのと同時に、即答していた。
二人掛けのソファが1つしかないので床に座ろうとしたが、身体が自然と彼の隣へ向かう。
そして、いつもワンコがいた彼の隣のポッカリと空いたスペースへ滑り込んだ。
ワンコの想いが身体を突き動かしているのが分かるが、それを拒絶しきれない自分がいる。
一瞬動きを止めた彼に、身体が自然と寄り添った。
その瞬間、彼から優しさの溢れる熱が伝わってきた。
ワンコがいつも彼にくっついていた理由が分かった気がする。
こんなに安心できる場所があるなんて、知らなかった。
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