兄嫁の本性 (Page 2)

 連絡先を交換し、しばらくは博隆から何の音沙汰もなかった。
 
 平穏無事な生活に帆乃美は胸を撫で下ろしていたが、一方でこの静けさに不吉な影も彼女は感じ取っていた。相手の機嫌次第で容易く今の生活は食い荒らされるのだと。
 
 微妙なストレスをかけ続けられる日々に、唐突に連絡が舞い込んだのは夫の夕食を温めている時だった。
 博隆と話をしていたテーブルに放置していたスマホに着信があったと、夫がわざわざ持ってきてくれたのである。
 
 スマホを確認すると、そこには翌日の待ち合わせ場所として駅前を指定するメール。そして、大きく股を開いて淫具を秘所で咥え込んでいる帆乃美の画像が添付されていた。スパムメールが届いたと夫に言い訳をして、慌ててメールそのものを削除する羽目になる。
 
 唇を噛んで屈辱に耐え、帆乃美は一晩を過ごした。
 
 そして、翌日には何事もなかったかのように夫をいつも通り仕事へと送り出す。一人になった途端に不機嫌が顔に現れ、それは駅前で博隆と顔を合わせるとよりはっきりとした。
 
「おい、そんな顔するなよ。顔はいいんだから」
「顔も、よ」
「へぇ、体の方もってことかよ」

 博隆の視線が舐めるように全身を観察する。
 
 ベージュのジャケットに薄紫のシャツと、白いタイトスカートを合わせた帆乃美は、隠すように腕を組む。だが、博隆の視線は胸や腰、尻、足と無遠慮に移動していく。まるで手で触れられているような不快感が帆乃美の肌に残った。
 
「確かに、良い体してるな」
「どうも」

 短く言って、帆乃美はむっつりと口を閉ざす。
 その様子に博隆は喉の奥で低く笑う。
 
 いちいち言動が癇に障る男だ、と帆乃美は思うが口にも顔にも出さないように努める。
 
「さあ、行こうか」
「……」

 黙って博隆の後を帆乃美はついていく。彼は駅舎に入り、改札を目指している。
 それぞれのICカードで改札を抜け、博隆はホームの端まで移動して列に並んだ。
 
 ホームはまだまだ出勤する勤め人で混雑している。二人は比較的列の短い場所にいたが、それでも五、六人は前に並んでいた。
 
 まともな職にも就いていないような男が、わざわざ通勤ラッシュの時間帯に電車に乗りたがる。そのことだけで帆乃美は胸中で嫌な予感が育っていくのを感じた。
 
「もしバレたら、プレイ中ですってちゃんと言ってくれよ?」

 帆乃美の予感を知っているかのように博隆が告げる。
 
「絶対に嫌よ。バレたら、あんただけ捕まればいい」
「そうなった場合はあんたも道連れにしてやる。分かるか? 俺にはなくして困るようなものなんざ、ないんだよ。あんたと違って」

 冷たく抑えた彼の声音に初めて帆乃美は嫌悪ではなく、恐怖で肌を粟立てた。この男は爆弾と一緒だ。最悪の場合は周囲のものを巻き込んで自爆する。
 
 ぼそぼそと言葉を交わしているうちに、電車がやって来た。ラッシュのピーク程ではないが、それでも車内は十分混雑している。
 

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