青い薔薇の花言葉は (Page 2)
アトリを娼婦として仕込んでいた組織と『ブルー・ローズ』が本格的に敵対した。
きっかけは『ブルー・ローズ』がアトリの引き渡しを拒んだことだ。そのため、アトリと保護者である古賀を狙い、敵対組織は行動を開始。その警護を澤木に依頼したのである。
依頼に対し、澤木は逃亡を選択。交戦することに利はないと判断した。下準備として追跡の手を潰し、勢力下から脱出。現在は首都圏を離れ、地方をうろついているという訳だ。
「だが、『ブルー・ローズ』も思い切ったことをしたもんだな」
「それはそうでしょうね。オーナーにとっても勝負所でしょう」
「……他人事だな」
「そうかもしれません。私にとって、彼らは過去でしかないのでしょうね」
「どういことだ?」
そう口にしてから、澤木を顔をしかめた。
「いや、すまん。さっきのは聞かなかったことにしてくれ」
他人の過去を無意味に詮索する趣味はない。澤木も悪戯に過去のことをほじくり返されたくないのだ。古賀とてまともな境遇だと到底思えない。
「構いませんよ」
古賀は穏やかに微笑み、カップに視線を落とした。
「せっかくだから、昔語りでもしましょうか」
カップから視線を上げ、古賀は焚火を見つめた。その眼差しは火の揺らめきを通して昔日を垣間見ているかのようだった。
「あるところに、一組の姉弟がいました。二人は生まれた時から商品でした。金持ちの欲望を満たすための高価な使い捨ての玩具です。姉弟は別々に買い取られ、幸運にも生き延びて再会することができたのです。そして、二人は同じように買い取られていった同胞達を助けたいと思いました」
三人とも古賀の言葉にじっと耳を傾ける。
「姉は積極的でしたが、弟はそんなことは不可能だと感じていました。自分達が特別に幸運だっただけで、殆どの同胞は死んでいるだろう、と。
そんな弟に姉は言ったのです。
ならば私達は不可能を育てるものになろうと。
そうして『ブルー・ローズ』が生まれました」
くしゃりと古賀の顔が自嘲に歪む。
いつも穏やかな彼にしては珍しく激しい感情の発露だ。
「すぐに頓挫すると思っていましたよ。ですが、オーナーの情熱と努力に多くの人が助けられ、『ブルー・ローズ』は大輪となった」
「結構なことだ」
澤木は強いて平坦な口調で言った。安っぽい同情や共感など、古賀は求めていないだろう。
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