青い薔薇の花言葉は (Page 7)

 普段は四人で眠っているバンの後部座席に寝袋を並べ、古賀とアトリは二人で眠っている。座席を倒してフラットに出来るが、寝袋とマット越しでも凹凸を古賀は背中に感じていた。

 屋外よりも車内はずっと暖かく、安心して眠ることが出来そうである。車中泊を繰り返したこともあったが、やはり野宿に比べると屋根と壁があるだけで肉体的にも精神的にも安心感が違うのだと今更ながらに古賀は自覚した。

 寝袋での就寝にもとっくに慣れ、古賀はゆっとくりと意識を眠りへと落としていく。

 そこへ不意に声をかけられた。

「古賀さん」

 目を開け、顔を傾けると同じように横たわっているアトリと目が合った。

「少しだけ、お話をしてもいいですか?」

「構いませんよ」

「私が誰を好きになることは、おかしなことでしょうか」

「そんなことはありませんよ。あなたは人間です。誰かを好ましく思うことは、自然な心の動きです。もちろん、反対に誰かを疎ましく思うことも同じぐらい自然なことです」

 古賀はアトリに言い聞かせるようにゆっくりとした口調で言った。

 対して彼女は、どこか不安げに言葉を重ねる。

「私は、古賀さんを独占したいと思ってしまう時があります。他の誰でもなく、私を見てほしいと。同時に私があなたにできることは何かないのかと、そんなふうにも思うのです」

 アトリの心が揺れ動いているのだと、古賀にも手に取るように分かった。だが、その情動はまだまだ幼く、心を蠢かせるものの正体にアトリ自身が名付けることもできていない。

 彼女は非常に歪な成長をさせられてきたのだ。商品としての教養を与えられこそ、歯向かうような精神性は与えられてこなかった。ひたすら従順に、希薄な自我は相手を楽しませるためだけの副次的な代物に過ぎないと。

 そんなアトリが、自らの裡に自然発生した手の付けられない感情に手を焼いている。

 それは成長として喜ばしいことだ。しかし、肥大化した理性がそれに混乱してしまっている。

「慌てる必要はありませんよ、アトリ。ゆっくりとあなたのペースで考えてください」

 こくんとアトリは小さく頷いた。

 しばしの逡巡の後、彼女はそれから、と言葉を接いだ。

「私は、古賀さんに抱かれたいと思っています」

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