青い薔薇の花言葉は (Page 9)

 一夜明け、古賀は澤木を手伝い、キャンプ道具を車に積み込んでいた。

 空は昨夜からの曇り空を引き継ぎ、やや薄暗い。

「こいつで最後だな」

 澤木はそう言って荷物を全てチェックしてから、ラゲッジの扉を閉めた。

 二人の周囲には誰もいない。

 鈴鹿とアトリは連れ立ってキャンプ場の管理棟に向かっている。チェックアウトの手続きのためだ。

 車に背を預け、澤木はぼんやりと景色を眺めている。そんな澤木へ、古賀は言葉を投げた。

「澤木さん、今回の一件が終わったら、鈴鹿さんとアトリさんを一緒に旅をさせてみませんか?」

「はぁ?」

「雛鳥は、いつか巣立つものでしょう?」

 古賀の言葉に澤木は微妙な顔をして黙り込んでしまう。賛成とも反対とも言い難い。そんな表情だ。

「鈴鹿を同行させる意味が分からんな」

「二人に自分の世界を広げてもらいたいのです。そういった意味では私達の利害は一致しているでしょう?」

 澤木が顔をしかめる。

「俺達の都合じゃない、肝心なのはあいつらの考えだ。違うか? 旦那」

「私も同じ意見です。ですがり流石に一人でいきなり放浪しろと言っても不安でしょうからね」

「……補助輪付きってことか。しかしなぁ」

「澤木さん」

 強い意志を込めて古賀は澤木を呼んだ。

「『ブルー・ローズ』の花言葉をご存じですか?」

「いや……」

 怪訝そうにする彼へ、古賀はそれこそ皮肉に思いながら説明をする

「花言葉は不可能。在り得ぬもの」

「それでオーナーはサロンの名前を『ブルー・ローズ』にしたのか」

「ええ、そうです。最初は不可能であると知りながら、それでも諦めないという意思で」

「そいつは皮肉が効いてるな」

 彼と同じように澤木も感じたらしい。

 しかし、と古賀は澤木の顔から視線を逸らした。

「今は違います。技術の進歩により、人は在り得ぬはずだった青い薔薇をついに生み出した」

 古賀につられ、澤木も同じ方向へと目を向けた。

 そこには並んで歩く鈴鹿とアトリの姿がある。

「今の花言葉は――夢が叶う」

 眩し気に澤木が目を細める。

 そこにあるのは未来だ。

 不確定で、不安定で、そして不安に満ちた未来。

 目隠しをして細い道を歩むような保証など、どこにもない世界。

 希望に等満ちていないかもしれない。

 だが、それでも。

「叶うのは、あいつらの夢なのかね、旦那。それとも俺達の古ぼけちまったやつかい?」

「私達の夢は、あそこにいます。それで私には十分です。背負わせるなど、とてもできませんね」

 ははは、と澤木は声を出して笑った。

「旦那、俺も同感だ」

 鈴鹿とアトリが弱々しい日差しの中を歩いてくる。

 一歩一歩、確かな足取りで。

 雛鳥がいつしか翼を広げ飛び立つように、青い薔薇は人工の花園から解き放たれる。

 これから咲く場所は、誰の手入れもない荒れた地かもしれぬ。

 だが、それでも青い薔薇は咲くだろう。

 大輪の花弁を誇らしげに広げて。

(了)

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