ある官能小説家の失敗~ゴーストライター食ったら喰われた!~

・作

訳ありで、ある小説家のゴーストライターを秘密の副業でやっているOL。ある時いきなり、ゴーストライター先の男性官能小説家から『会いたい』と礼金付きアプローチが来た。まとまった金が欲しかった女は応じてしまう。だがそれは自らのゴーストライターを性奴隷にしようとたくらむ、官能小説家の罠だった……のだが?!

 しまった……実力行使されてしまった、とやっと分かった。
 あんなに嫌だと言い続けていたのに、目の前にいるのは、自分のベッドに服はおろか、下着すら着けずに座っている男。
 彼はコンドームの箱のフィルムをはがしながら、大丈夫だから、誰にも知られないようにするから、と繰り返し言っているが……そんなの信用できない。
 刈屋奈月、36歳。
 一応それなりに名の知れた企業の正社員とはいえ、年収は500万円にやっと手が届くぐらい。奨学金無しで大学を卒業することは出来たが、卒業寸前に父が倒れ、実家に仕送りをしなければならなくなった。
 こんな状況で恋愛など無理だと腹をくくり、奈月はひたすら仕事に打ちこんできた。周りの同期や後輩が次々結婚していくのを横目で見ながら、ひたすらサービス残業、そして副業として官能小説のゴーストライターとして必死に働いている。

 会社はともかく、この副業がくせ者だった。大学にいた頃にはさんざん男と遊び倒し、SMバーやハプニングバーを女一人でのぞきに行ったこともある。ネタには困らなかった。
しかしあくまで会社に内緒の副業であり、そのおかげでペンネームでも自分の名前を出せず、某作家の作品として発表するのがせいぜいだった。

それもこれも、正社員の座を守るため。

 ゴーストライターということで、原稿料と印税は作家本人にほとんど持っていかれていた。それでも、実家に仕送りとして、父の病院代などとして送るには十分な額だった。だからずっと続けていた。やめるわけにはいかなかった。

しかしどこで聞いたか、自分のゴーストライターが独身女性だと聞いた作家本人が、奈月に会いたいと言い出し、会えるなら礼金を手渡したいと言ってきたのだ。
 本来なら疑ってかかるべきだったが、その礼金があれば父の手術代が出せる。そしてその手術を受ければ……父は病院から退院出来る。完治も夢ではないし、何より父が実家で過ごせるようになるのだ。母から手術代がどれだけかを聞いてから、まとまったお金が欲しくてたまらなかった。礼金の額が本当なら、手術代を出しても、かなりのおつりが出る。
自分もゴーストライター相手の作家と会いたい。奈月は即答した。

 そのゴーストライター相手が、目の前にいる男だ。
 思っていたより若く見える。ジム通いをしているので、細マッチョともいっていい。食事をした時言っていたが、奈月が関わっていないシリーズ物のネタが、このジム通いらしい。ネタのほとんどはジム仲間から聞いた話だそうだが、本人もかなりの数の女性を引っかけてネタにしていると言う。

「自分のゴーストライターをやっている女性を犯すなんて、官能小説家としては最高の夢だ……」
 うっとりとした表情でつぶやくと、彼は動けないでいる奈月の肩に片手をかけ、もう片方で奈月の長めの髪を首の後ろから梳き、毛先をいじった。
「駄目ですね、髪がだいぶ傷んでいる。女性として、損をしていますよ」
美容院に行くお金はないし、行く時間があったら、原稿を書いてます。
私がゴーストライターをやっている理由は、先生もご存じでしょう?!」
 奈月は男の顔を正面から見つめ、にらみつけた。

「これは失礼」
くすくす笑いながら、男は今度は奈月の首に唇を落とす。唇を落とした近くにあるワンピースのジッパーを一気に下ろした。すとんとワンピースが落ち、これで奈月は、下着とパンストだけの姿になった。
ワンピースとセットになっていたジャケットは、玄関を入った時点でぬがされてしまっていた。あの時は紳士的だなと思ってしまった。今思えば悔しいばかりだ。

奈月が悔しさで唇を噛むのを見た男は、真面目な顔になり、”正論”を吐いた。

「ゴーストライターであろうが名の知れたプロであろうが、官能小説家同士のセックスは、お互いに非常に貴重な体験になるというのに、今の貴女の態度はまるで子供だ。
 20代や30代前半の小娘ならまだ理解はできますが、情けないとは考えませんか?」

 奈月は、観念した。男の言葉は、事実だった。
「……シャワーを、浴びてきても?」
 下を向いたまま許可を求めたが、男はあくまで職業的な答えを返してきた。
「一緒に浴びましょう……僕は二度目になりますがね」

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感想・レビュー

1件

ある官能小説家の失敗~ゴーストライター食ったら喰われた!~ へのコメント一覧

  • 幸せな失敗

    タイトルに釣られて読みました!
    女性が優位になる点と描写が官能的でリアルな点でこの作品はとても素敵だと思いました。

    1

    とと さん 2020年6月4日

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