電車内の誘惑 (Page 7)
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「喉が渇いただろう?」
男が水の入ったコップを差し出した。ベッドに横たわっていた香織はのろのろと起き上がってコップを受け取った。
「これからも……こういうこと、続けるの……?」
「……したくないのか?」
「あ……当たり前でしょ! こんなの、おかしい」
「そうか」
男が携帯電話を取って香織の隣に座った。画面には香織の露出写真が写し出されている。
男が携帯電話を操作し、写真を削除した。
「……え……?」
「転送はしていない。写真は消えた、これで君が脅される理由はなくなった」
「け……けど……」
「次の月曜日に、一本早いか遅い電車に乗れば君は堕ちなかったのだということで逃がしてあげる。堕ちなければ俺の負けだ、素直に認めるよ」
「そんなの……信じられない……」
「そうだろうな。だけど約束は守るよ」
「でも、そしたら……」
「次の子を探すだけだ」
次……。香織が逃げたら、また別の被害者が出る。でも、香織はもうこんなことをしなくてすむ。
「なんで、逃がすなんて……」
「そうだな、君を好きになったからかな」
「好……き……?」
「脅しではなく、君が自分から抱かれたいと思ってくれるのでなくては嫌になったんだ」
「そ……んなこと、いきなり言われても……」
うつむいていたら、あごに指が添えられて顔を上げさせられた。キスされて、そのまま舌が入り込んでくる。
「ん……ん、ちゅ……」
どんどん中に男が入ってくる……。
そっと押しのけると、男はどこか寂しそうに笑った。
「これからどうするかは、君が決めるんだ」
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そして、翌週の月曜日。今日も電車は満員だった。
「……逃げなかったんだな」
男に後ろから囁かれて、背筋がぞくぞくした。
「これが最後のチャンスだったんだよ。選んだからには、君はもう逃げられない」
「……分かってる……私が逃げたら、他の子が犠牲になるんでしょ。そんなの、許せない」
「正義感が強いな。……とでも言うと思ったか?」
「あうっ」
うなじに口づけされて香織は背中を反らした。
「君はもう、男に身体を貪られないと物足りないのだろう? まったく、淫乱だな」
「ちが……」
「次の子を探すなんて嘘だということも分かっていたはずだ」
「う……」
「君はもう俺のものだ」
強引に後ろを向かされて腰を引き寄せられた。
「もう逃がさない」
「うん……逃げるつもり、ないから……私もたぶん、好きだから……」
男がちょっと意外そうな顔をした。
「な、何」
「君は何というか……」
「何」
「何でもないよ。さて、今日はどこを触ってほしい?」
耳元で囁かれ、それだけでとろけそうになる。
「触って欲しい場所を言う前に……名前、教えて」
香織は男を見上げた。男が微笑み、口を開いた。
(了)
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