副業勇者でも魔王を堕とせるんですから!! (Page 2)
「あら!あら!あら!」
焦ったような声を出しながらも、ミクリは軽々とその攻撃を掻い潜る。
シュルルル!!バシッ!バシッ!バシッ!
避けるどころか、トラップ魔法が発動する前に、生き物のように伸びた鞭で次々と仕掛けられたトラップを破壊し、自分の間合い迄、距離を詰める。
「なんじゃと!?」
鞭による攻撃が、ヴァニラの視覚に入った時にはもう避ける事はできないはずだった。
しかしその瞬間、ヴァニラの身体の周りから、『光の障壁』が現れた。
「あらっ?…きゃあああ!!」
ミクリの攻撃は、ヴァニラには届かず逆に『光の障壁』に弾かれたミクリの方が吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。
「っっく…いったぁ~。なんですかぁ?それ?」
ヴァニラを中心に数メートルの範囲まで伸びている『光の障壁』は、物理攻撃、魔法攻撃、精神攻撃、あらゆる攻撃から魔王の身を守るものだ。
「ふざけた態度をしていても勇者じゃな。この身体に仕掛けられた絶対障壁のトラップ魔法まで発動させるとは。…この鞭での一撃にそこまでの威力があるという事か。」
落とした鞭を拾い上げながら、ヴァニラは自分に向けられた武器の威力に恐怖を覚える。
(本来ならば魔王が瀕死の状態に陥った時に自動で発動する『光の障壁』…攻撃が当たる前に発動したという事は………。)
魔王であるヴァニラより正確に魔法の方が、勇者ミクリの実力を見抜いていたようである。
「今の一撃で仕留められなかったのは失敗じゃな。この『光の障壁』は絶対に破れん。お気に入りの鞭はここにあるようじゃが続けるか?大人しく逃げ帰ると言うなら命までは取らんぞ。」
戦闘の緊張感に神経を張り詰めるヴァニラとは裏腹に、ミクリはジッと魔王の身体を上から下まで品定めをするように見回す。
「んー…確かに破るのはムリそう………ヴァニラちゃん、私…女の魔王ってもっと強くてグラマーな姿を想像していたんですけど…期待外れね。」
「なっ!?そんなこと、魔王の強さには関係ないじゃろ!!!」
ヴァニラの身体は、背も小さく、胸も無い、顔つきも幼い。
対するミクリは、離れていてもわかる巨乳で、お母さんのような優しいオーラを放っている。
「でも女の武器って必要でしょ?私の旦那もこのおっぱいが好きって言ってくれるし。あなたのその小っちゃいお胸じゃ、部下を喜ばせる事もできないんじゃないかしら?」
ミクリはわざと自分の魅力を見せつけるように、胸の谷間をムギュっと強調してくる。
ヴァニラにはとてもじゃないが太刀打ちできない大きさだ。
「わ…わらわ程の実力があれば、そんな下世話なやり方をせんでも部下は付いて来るわ!」
確かにヴァニラは先代の父親からこの地位を譲り受けているので、実力ではないと言われればそれまでかもしれない。
この部屋にトラップ魔法を仕掛けているのも、自分の魔力の低さがゆえに、それを補うために必死になって編み出した対策だからだ。
「実力って言っても…魔王の得意な魔法がトラップ魔法なんて………地味。」
地味…その一言にヴァニラの中の怒りが弾ける。
「っく!人が1番気にしている事を!!武器が無いお前がこの攻撃を防げるか!!」
怒りに任せ、残りのトラップを全て解放しようとする!
「…転移・お洗濯しちゃうぞ!」
ミクリが転移呪文を唱え終わると、先ほど落とした鞭の持ち手の部分から大量の水が勢いと共に噴き出してくる。
「いいいぃぃ!!??」
ヴァニラが作り出した障壁の内側が水没していき、勢いよく噴き出す水は洗濯機のように渦を巻いている。
「きゃぁぁぁぁーーー!!!」
「その武器はね、私の意志でどんなモノでも取り出せるの。さっきまでは、薔薇を取り出して鞭にしていただけで~、今はこことは別の世界、カラブリアの大渦を転移させてもらったわ。お洗濯するのに丁度いい水流なのよね~。」
絶対に破れないと言っていた『光の障壁』の中は水が洩れることも無く、高速で洗濯をされていく魔王。
「がぼごぼごぼごぼーー!!」
「大量の水を取り出すには少し時間が掛かるけど…ヴァニラちゃんとお話しするの楽しかったわよ。こっちの挑発にいちいち反応してくれるから可愛かったし。」
まるで水族館の水槽の中に手を振るように、ミクリは笑顔で愛敬をふりまいている。
(先ほどのわらわを怒らせるような言動も計算か!っく!いい気になりおって!)
「早く魔法を解かないと、溺れちゃうわよ~。」
強がりはしてみたものの、息は限界・・・我慢できずにヴァニラは魔法を解除してしまう。
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