副業勇者でも魔王を堕とせるんですから!! (Page 8)
その後―――。
勇者との戦いから1週間…多くの職人が、城の最上階に集まる。
吹き飛ばされた扉…部屋に空けられた大穴…破壊されたトラップ魔法の残骸などが、次々と片付けられていく。
好きで受け継いだ城では無いが、それでも数百年という時間を過ごした場所として、安らぎが合ったのは事実だ。
「折角なので魔王様の好みの内装に作り直しますよ。城の歴史が無くなったのは悲しいが、また新しい歴史を作るのはそれ以上に楽しいですからね。」
先代魔王の時から仕えている大臣の言葉には、少しだけ涙が出てきそうになった。
代々受け継がれてきたこの魔王城も、全面リフォームか…。
「勘違いでここまでやられたらたまったもんじゃないですね!勇者宛てに修理費用、請求してやりましょうか!」
如何にもな職人気質の魔族の言葉が、ズキッとヴァニラの心に刺さる。
「余計な事をするでない!また、奴が来てしまうじゃろ!…わらわは部屋に戻る!あとは任せたぞ!」
「へ、へぇ…。わかりやした…。」
自室に戻り特注で作らせたソファーの上に倒れ込む。
(なんで、こんなにイライラするの…。)
城を壊されたからか、初めてを奪われたからか、それ以前にアイツの最後のほわほわした態度が気に入らないからかもしれない。
『エッチしてる時みたいな方が可愛いくて似合ってるわよ?』
可愛いなんて今まで言われたことなかったし…。
魔王でいる事が当たり前だった私が、魔王を止めるなんてこの世界の常識じゃありえない。
「ん…はぁ…あっ…。」
それでも、アイツの事を考えると自然に身体が疼いてしまう。
うつ伏せの体勢のまま、服の上からでも、触られたときの感覚と感情が甦ってきてしまう。
もう一度あのちんぽを感じたい…スキルの効果なのかも知れないけど…ミクリに会いたい。
「あら?お盛んね?、1人でいるときはいつもこうなの?」
「きゃあ!?」
突然、頭の上から声がする!
身体を捻らせた拍子にソファーから転げ落ちてしまう。
「な…な!?ななな!?」
ポッカリと空間に空いた穴の中から、ミクリの顔が見える。
「よいしょっと…。お邪魔するわね。ああん…お尻が引っかかる。」
「ど、どうして戻ってきたのじゃ!?救う世界は?勘違いだったのじゃろ!?」
「ああ、そっちはもう終わったわよ。今日はね…別の用事。」
人の寝室に押し掛けて来たと思えば…勇者が魔王に用事とは…。
「実はね、また新しい世界に喚ばれちゃってるんだけど…ちょっと時間がかかりそうなのよね。ヴァニラちゃん…仲間になって。私と一緒に異世界に来てくれない?」
「へっ…?」
突然の勧誘に思考がまとまらない…。
仲間って…一緒に旅する仲間?ミクリとご飯食べたり、お風呂入ったり、ベッドに入ったり…?
「ダメかしら?流石に、魔王がいなくなったらこの世界が混乱しちゃうわよね…。」
「いや!行く!ミクリと旅…してみたい!」
さっきまでのイライラは無くなって、私の中の感情が吹き出す。
「ほんとに!嬉しい!!ありがとう、ヴァニラちゃん。」
ムギュっと大きなミクリの胸に抱き締められる。
「むが…もご…。」
強烈な圧迫感に声が出せなくなる。
(このモヤモヤした気持ちが、どういうモノかはまだわからないけど、ミクリと旅をしたら答えが見つかるかな?)
『先祖代々受け継がれた魔王が世界を統べる』。
この世界の常識であるその言葉を覆すために、目の前の副業勇者はやって来たのかも知れない。
「あ、旅立つ前に…スーパーに買い物付き合ってくれない?牛乳と卵が1人1つまでなのよ?。」
「それ…魔王と勇者がやる事じゃないでしょ…。」
(了)
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