春三月・桜の下で少年は……
受験生の和真は模擬試験の結果が芳しくなく、母親の節子に激しく説教された。酷く落ち込む和真。その夜、家庭教師の彩香が来る。彩香に、和真へもっと厳しく指導するように言う節子。しかし、彩香は自分の理想を押しつける節子に疑問を抱いているのであった――
「これから、先日行った模擬試験の結果を返す! 各々、その結果をよく見て、今後の方針や対策を練ること! いいな!」
中年男性教諭のダミ声が教室に響く。坂下和真(さかしたかずま)はその声をうつろな気分で聞いていた。
(この前のテストは上手くいかなかったんだよなぁ……)
ぼんやりそんなことを考えたりもした。
(また母さんに叱られるよ……)
そう思うとゲッソリした。
「坂下! おい、坂下!!」
和真はハッとした。教師に呼ばれて我に返ったのだ。テストの結果を受け取って席に戻ると、小さく「ハァ……」とため息をついた。結果はほぼ彼の予想通りだった。彼の志望校……いや、彼の母親が希望している学校と言ったほうが正しいだろう……の合格判定はD判定だった。かなり厳しい。
(やっぱり酷い結果だったなぁ……家に帰りたくないなぁ……)
そんなことも考えながら、和真はその後の授業も上の空で下校時間を迎えたのであった。
「ただいま……」
「おかえりなさい、和真ちゃん?」
その日の夕方、帰宅した和真を待ち構えていたのは仁王立ちした母親の節子(せつこ)である。
「先日の模擬試験の結果、返してもらったわよね?」
「……うん……」
和真は節子から目を逸らして返事をした。節子はそんな和真にはお構い無しで、すぐに結果を見せるように言った。
「何よ、この結果? 掘北学園、D判定じゃないの?」
「……ごめん、母さん。頑張ったつもりなんだけど……」
節子はギロッとした目をして言った。
「『つもり』って何? 『つもり』って! ちゃんと全力を尽くさないからこういう結果になるのよ!!」
「母さん、ごめん!!」
「和真ちゃん? あなた、お受験を甘く見てない? お受験の結果であなたの通う学校が決まるの! きちんとした学校を出ないと、苦労するのはあなたよなの?!」
「うん、分かってるよ!」
節子は顔を真っ赤にし、さらに激しい口調で言った。
「全然分かってないわよ! 和真ちゃん? あなたは掘北学園に進んで、エリートコースを行かないといけないの! お母さんの言う通りにしてないと、あなた、ろくな人生を送れないわよ!!」
和真は完全にうつむいて、目尻は涙がにじんでいた――
実は彼は別の志望校があるのである。西城科学技術学院。彼の母・節子は、彼には掘北学園から行政職公務員へのルートを進んで欲しいと考えているのだが、彼は西城科学技術学院でITのエリート教育を受けて、将来はAIやロボットを扱うエンジニアになりたいと思っているのだ。
和真と節子の志向は全く違うため、彼は勉強に身が入らず、掘北学園が合格圏外なのはもちろん、西城科学技術学院の合格圏からも遥か遠いのだ。
2時間にも及ぶ節子からの叱責が終わり、彼は自室にこもったのであった。
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