人妻玩具 (Page 4)
「あんたの旦那は、店の金を持ち逃げしたんだよ。それで、ここに残ったあんたは、俺に、何を、どうしてくれるんだよ?」
加々野は怒りを抑えて静かな声で訊ねる。その抑えた怒りは濃度を増し、加々野の脳裏に閃いた悪意を縁取り確かな形にしていく。
「俺から盗んだ金を返せ。それで水に流してやる」
「い、幾らですか」
金額を告げると陽奈子の顔が青褪めた。もしかしたら想像していた桁とは、一つか二つ違ったのかもしれない。
「こんないいマンションに住んでるんだ。それなりの貯えがあるだろ」
「そんな大金は、すぐには無理です」
「自分の実家でも旦那の実家でも、なんでも頼りな」
「マンションのローンも、あって……」
「だからなんだ」
「夫と結婚する時に、実家とは、その絶縁してしまって……」
「俺には関係ない。そこまで覚悟して一緒になったんなら、責任も取ってくれ」
「それは……」
「それは、なんだ?」
夫の犯罪の責任を妻が取る必要はない。
法的にも倫理的にも。
だが、加々野はあえて陽奈子を精神的に追い詰めることを選択する。悪意に従い、自分の欲求を満たすことを最優先にした。
「あんたは働いてるか?」
「いいえ、特には」
「どうやって、これからマンションのローンを払って、俺に金を返すつもりだ?」
「これから働ける場所を探します!」
胸倉を掴んでいる加々野の手に縋るように陽奈子が触れる。それを振り払い、加々野は冷酷に告げた。
「犯罪者の妻を、どこの誰が雇うんだよ? 金を持ち逃げされるかもしれないんだぞ? どこの、誰が、お前を信用するんだ? あ?」
そもそも職業的信用に関わるなどの事由があって面接の際に質問でもされなければ、前科について告知の義務はないとされている。なにより、配偶者の犯罪は自身の就労には関係がない。
経営者となるため、簡単に法について加々野は学んだが、こんな形で悪用することになるとは思いもしなかった。何も知らない相手に、それらしいことを言いくるめる。まさに詐欺の手口だ。
「あんたが働けないってことは、俺にもデメリットなんだ。それは分かるか?」
表情を明るくして陽奈子がこくこくと頷く。活路があるかもしれない、そんなふうに思ったのだろうか。加々野は残酷な心地で、そんな彼女の顎を掴む。容赦なく力を入れると、陽奈子の顔が痛みに歪む。
「だから、あんたの働き口は俺が世話をしてやる。だがな、また金を持ち逃げでもされたら最悪だ。これも分かるな?」
「しません、絶対に」
「信用できるわけがないだろう」
鼻先で笑ってやる。
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