一人と独り (Page 6)

「ひぃぃぃ」
 未知の感覚だったらしく、環が悲鳴を上げて髪を振り乱した。呼応して一層強く男根を膣が絞り上げる。

「うぐっ」
 うねり締め付け包み込む女陰に、堪えることができない射精欲が一気に暁彦の腰から脳髄まで駆け上がった。欲望に従って暁彦は吐精するため、男根を環の中から引き抜く。そして、手で扱くまでもなく、たっぷりと環の尻、そして背中にかけて大量の精子を吐き出した。

 濃厚な精子がゆっくりと体のラインに沿って床へと落ちていく。
 腰から手を離すと、力の抜けた環は床にへたり込む。その鼻先へ射精したばかりの陰茎を見せると、彼女は何も言わず舌を這わせた。

 すっかり中に残っていた精子も吸い取られ、暁彦は環を立ち上がらせる。

「続きは寝室でしましょう」

 ぼんやりした環を連れ、暁彦は寝室を目指した。

 暁彦は静かにベッドを抜け出した。
 ダブルのベッドに1人で環が眠っている。

 起こさぬように慎重に着替え、暁彦は環の家を出た。
 夜と朝の間のような時間帯である。まだ、日の出までは時間があり、しかし、そう遠くないであろう気配が濃い。

 暁彦が目指す先はカフェだ。そこには彼の荷物が全てある。
 カフェに辿り着いた暁彦は、長年使っている鞄に所持品を全て詰め込んだ。金は目標とする額まで貯まったし、長居する理由などない。

 だが、暁彦はすぐに出発する気になれなかった。去り難く思っているのだ。
 夜明けまで、まだ時間がある。鞄を床に降ろし、暁彦は寝床があった倉庫の隅に腰を下ろして目を閉じた。疲労に身を委ね、眠りに落ちる。

 再び目を開けた時、朝の気配が濃くなっていた。夜の残滓を全て押し流そうとする潔癖な朝日の気配だ。
 再び立ち上がった暁彦は、鞄を手に階下へと足を向ける。

 その途中で、ふと人の気配があることに気付いた。カフェを覗くと、環が開店の準備をしている。昨夜のことなどなかったかのような顔で作業をしていた。

「おはよう」
 これまた普段通りの柔和な表情と声音で、環は階段の途中で止まっていた暁彦に声をかける。

「今日から一人で開店準備をしないといけないから。でも、暁彦君が来るまでは、ずっと一人でやってたから大丈夫よ」
 環は彼が何か言う前に微笑んで見せた。そして、暁彦に歩み寄ると紙袋を手渡す。
「コーヒーとサンドイッチ」

 暁彦は何も言わず、紙袋を受け取って店を出た。歩き出し、少しだけ躊躇ってから暁彦は背後を首だけで振り返る。風雪を身に刻んだ古い民家が黙然と曇り空の下で蹲っていた。
 いつか、この店で暮らしたことを懐かしく思い出す時がくるのだろうか。

 それとも、思い出すこともできない記憶の底に沈殿してしまうのか。
 あるいは、ここに戻りたいと願う日が訪れるのか。
 暁彦は結局答えを出せないまま、前を向いて歩き出した。
 独りきりで。

(了)

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