保険外交員の淫悦契約 (Page 8)

 子宮口との衝突を何度も繰り返し、ついにその時が近づいてくる。
「ああ、出る、出すっ……!」
 初めて女を抱いた童貞のように叫び、板垣は最後の力を振り絞って膣奥へと自らの欲望を叩きつけた。途端に膣内が一斉の収縮し、外から内へ向かって蠕動する。
「だしてぇ、あ、あ、あっ、ああっイくぅぅぅっ!」
「おおっ」
 腰の後ろで足を組まれ、逃げられぬように固定されて板垣は三度目の射精を行う。

 ぷっつりと糸が切れたような感覚が板垣の脳内にあった。壊れた蛇口のように止めどなく精子が睾丸から上昇し、男根から発射される。味わったことのない法悦が板垣の全身を満たす。
 一方の佑貴子は射精の快感に打ち震える板垣を抱き締めている。その表情は恍惚としており、紛れもない達成感が上気した顔に浮かんでいた。

「ご満足頂けましたか?」
 穏やかな声音で佑貴子が問いかける。
「……はい」
 息も絶え絶えに板垣がか細く返事をした。

 ゆっくりと佑貴子が彼を抱き締めていた四肢を緩める。ぐったりした板垣は肩で息をしつつ佑貴子の上から動けない。
「添い寝は追加オプションですので」
「すみません」
 先程までとは人が変わったように二人は会話を続ける。

「ご満足頂けたようで、私も大変嬉しく思います」
 のろのろと自分の上から退いた板垣へ慇懃な態度で佑貴子が微笑む。
「板垣様は初めてのご利用ですので、入浴オプションが無料で実施可能ですが、いかが致しますか?」
「あー、えっと、どんな感じでしたっけ?」
「主に洗体です。その後の行為もご希望でしたら、サービスの追加手続きを行って頂く必要がございます」

 事務的な内容を笑顔で説明してくれる佑貴子に板垣は思わず苦笑してしまう。
「プロなんですね、接客も」
「ありがとうございます」
 にっこりと笑顔で佑貴子が答える。

「……俺みたいに、その設定っていうか、ストーリーっていうか、そういうのまで指定する会員っているんですか?」
 充実していたオプションを思い出し、浴室へ向かう廊下で板垣は佑貴子に訊ねた。
「他の会員様の詳しいご利用状況はお答えできませんが……、いないわけではございませんよ」
 ただ、と佑貴子は笑みを深めて言葉を繋ぐ。
「台詞まで指定されたのは初めてでした」

「すいません」
「お気になさらず、次回も同じようにご利用ください。私共は保険外交員、人妻、OL、学生、スポーツ選手、文学者、あらゆるステータスを持つ女性との夢のようなひと時を会員様へ提供致します」
 浴室に入って佑貴子がシャワーの蛇口を捻ると勢いよくお湯が流れ出る。
「お体、洗わせて頂きますね」
 手指で丁寧に体を洗われ、板垣は恍惚として目を閉じた。

 日常ではできない行為を、触れることすら難しい美しい女性と行うことができる秘密会員倶楽部。
 会費は決して安くないが、それでも板垣に後悔はない。
 保険外交員の淫悦契約などというシナリオは却下されると思っていた。だが、予想に反して倶楽部側はキャストが内容を覚える時間をくれとしか言ってこなかった。
 
 実際にそのシュチエーションを体験した板垣は満足している。
 今回の体験を下敷きに、副業である官能小説家としての仕事も何とかこなせるだろう。
 締め切りに間に合いそうだという安堵。そして、最高の性体験ができた満足感で、板垣はほっと息をつくのだった。

(了)

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