女子アナのあなの中 (Page 2)

付き合い始めた頃からすると、杏はずいぶん出世した。
役職がついたり給料が大幅にあがったりすることはなかったが、多くのバラエティ番組でアシスタント的ポジションを務めるようになり、認知度が上がった。

局全体にとって大きな音楽特番のメイン司会を大物男性芸能人とともに務めてからは、大御所と絡む機会も増えた。

多くの人気タレントから「上島ちゃん」と気軽に声をかけられる存在になった恋人の輝きに、卑屈な気持ちが頭をもたげることも、淳平には正直なところあった。

しかし、視聴者に愛されるみんなの「上島ちゃん」が、共演者や視聴者には決して見せない表情を自分には見せてくれる。そのことが淳平の心をたまらなくくすぐる。

何より互いに求め合い、必要とし合っていることがはっきりわかっている。
だからそれぞれにさまざまな感情を抱いていても、2人は交際を続けていくのだ。

「上島ちゃんって彼氏いるのー?」

食後、のんびりテレビを眺めていたら杏がアシスタントを務めた恋愛系バラエティ番組が流れ始めた。
どこか気まずいもののそのまま見ていたところ、40代の中堅芸人司会者が不躾に杏に尋ね出した。

「うわー」

杏と並んでベッドに座っていた淳平は、少し身を乗り出して反応した。

「鈴木さぁん、それ、セクハラですよぅ!」

テレビ画面の中の杏は、嫌がっているとはとても思えないような表情で言った。

「さいあく…」

一方淳平の隣に座る杏は、思い出したくもないという苦々しい表情だ。

「ええー彼氏いるか聞いたらセクハラになっちゃうの?」

大仰に驚いてみせる司会者のにやついた表情は、杏の身体を舐め回すように見ている。

「もう、消そ」

リモコンに伸ばした杏の手を、優しく制するように淳平は掴んだ。

「待って」

「え?」

淳平の方を振り向いた杏に口付けると、杏はぴくんと肩を反応させる。

「ん…」

慰めるような優しいキスに、杏は甘い声を小さく漏らした。
テレビからは、先ほどの下品な司会者の声がまだ聞こえてくる。
唇を離すと、杏は少し潤んだ目で淳平を見つめた。

「どしたの?」

「鈴木さんはさ、本当の杏を知らないんだよね」

「んん?」

不思議そうに首を傾げる杏を、淳平は抱き寄せる。
テレビの中の司会者は、淳平からすれば一度も会ったことのないような、お笑い界の大先輩だ。
だけど彼は杏にセクハラ発言をして困らせることはできても、杏に触れることはできない。
杏が潤んだ瞳で見つめるのは自分だけなのだと思うと、ぞくぞくするような興奮を淳平は覚えるのだった。

「彼氏がいて、こんな風に過ごしてることも、鈴木さんは知らない」

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