純情嫁の告白と誘惑
教員をしている佐藤誠は、息子の翔太とその妻亜弓が暮らす家に遊びに行った。息子は飲み過ぎて早々に眠りにつき、自分も寝ようと客間に向かうと、亜弓に突然抱きつかれた。亜弓は誠の元教え子で、卒業前に誠に告白した過去があった。今は義理の親子としてうまくやっているつもりだったが、当時手を出さなかったためずっと心の中で亜弓を犯すことを夢想していた誠は、この状況に我慢できず襲いかかってしまう。
そっと肩に触れられたような気がして、佐藤誠は薄い眠りから目覚めた。
目を開けると、肩に柔らかな毛布がかけられていた。
「ごめんなさい、起こしちゃいました?お義父さん」
ダイニングテーブルに突っ伏して眠ってしまっていたのだと思いだし、ぎしぎしと痛む腕や腰に自分の年齢を感じる。
「いや…寝ちゃってたんだな、すまない亜弓さん…翔太は?」
「翔太さんはとっくに眠っちゃって。もう寝室に」
息子の妻である亜弓は、食器を片付けている最中だった。久しぶりに息子夫婦に会いに来て、調子に乗って飲みすぎた挙句こんな醜態を晒すとは情けない。
誠は静かにため息を吐いた。
「悪かったね」
「いいえ、翔太さんも楽しかったみたいです。普段はあんなに飲まないんですよ」
誠が身体を起こして伸びをすると、亜弓がキッチンから水を持ってきてくれた。
「客間にお布団の準備できてますから、お義父さんもいつでもお休みになってください」
「ああ…ありがとう」
亜弓と2人きりの空間に微かに緊張感が流れるのは、彼女が息子と結婚するそのずっと前から、誠は亜弓と知り合いだったからだ。
教員をしている誠が初めて亜弓と出会った時、亜弓は誠の教え子だった。
艶やかな黒髪が特徴的な、その年頃には珍しく大人びた雰囲気の静かな少女で、誠はなんとなく気にかかっていた。
卒業を間近に控えた寒い日、人気のない視聴覚室で亜弓に愛を打ち明けられた時のことを誠は今でも鮮明に覚えている。
当時まだ30代だった自分にとってその告白は、心を揺さぶる魅力があった。
「先生、一度だけ私を抱いてくれませんか?思い出にしますから」
それでも触れられなかったのは、淫行教師のレッテルを貼られれば一人息子にどんな苦労をさせるかわからないと想像したからでもあり、目の前の少女を結果的に傷つけてしまうのが怖かったからでもある。
翔太の母親とは学生結婚で、今ならあの頃の自分たちは親になるには幼すぎたのだと理解できる。
妻とは小さな諍いから埋められない溝ができ、30になる前に離婚した。安定した職のある誠が親権を持つことに決まり、シングルファザーとして必死に働き、子育てをしてきた。
自分のような苦労を若い者にしてもらいたくないという気持ちから、誠は「若気の至り」に否定的でもあった。
そんなことがあったから、息子が結婚したいと連れてきた女性が亜弓だとわかった時に誠はおおいに動揺した。
しかし、亜弓は翔太の前でも誠を「先生」と呼び、学生時代に世話になったと伝えていた。
屈託のない口調から、亜弓にとって気まずいことはないのだと悟り、義理の親子として自然にやっていこうと誠も心を決めた。
やはりあの時一線を越えないで良かったのだと安堵した誠は、あの日のことを忘れたように過ごしていた。
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