革命戦士の愛欲の日々

・作

時は1970年。大阪では万博が開催される一方で、安保闘争だの学生運動だのと、何かと世の中騒がしい時代でもあった。そんな中、『革命的芸術映画学生連合』に所属する僕は、『革命』だの『平和』だの『反権力』だのという名のもとに、アングラ・エロ映画の制作に勤しんでいるのであった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
「…あん、はああ…ぁあん…」
 ボロアパートの四畳半に敷かれた煎餅布団の上で、2人の男女が若い肢体を絡ませあっていた。
「ぁあああぁぁ…。ちょうだい!あなたの革命の血を!!」
「いくよ!僕らの結晶は、この国を革命に導く戦士だ!いくーーーっ!!」

「カーーーーット!!」
 僕は大声で叫んだ。
「違う!違うんだ!『いくよ!いくーっ!!』じゃないんだよ!2人のセックスは、まさに革命なんだ!芸術なんだ!全世界の平和を司るんだ!!そんなヤワなセリフじゃ駄目なんだ!!」
 僕は頭をぐちゃぐちゃとかきむしった。

※※※※※

 時は1970年、世の中は安保闘争、学生運動など、何かと騒がしい時期だった。一方で大阪では万博が開催され、僕らは大阪万博を『権力側が生み出した、幻想の未来』『資本家階級が労働階級に押し付ける似非の夢』などなど、けちょんけちょんに貶していた。もっとも、その頃の若者は、そういうことを言うのが流行りと言うかカッコいいと言うか、そんな感じだったのだ。だが、僕らの若かりし頃は、今どきの若者より、日本の行く末を真剣に心配し、社会情勢をよく勉強していたと思う、多分…

 それはさておき、僕もご多分に漏れず、学生運動とかの真似事をしていたので、『革命』とか『平和』とか『芸術』とか『闘争』とかいう言葉さえ入っていれば、屁理屈だろうが何だろうが、それは正当化されていたのである。そして、今、僕ら『革命的芸術映画学生連合』が撮影しているのは、
『反権力革命の最高の結晶』
『愛と平和の崇高な形』
などという謳い文句のもとで、単なるアングラ・エロ映画を撮影しているだけのことであった。

※※※※※

「何かが違うんだよ!おい!狩谷!お前の陰茎からほとばしる精子は、革命への口火なんだ!号砲なんだ!もっと魂からの雄叫びを上げろ!よし!もう一度さっきのシーンを撮り直すぞ!!」
 もう、我ながら言ってることがめちゃくちゃである。女優の咲子は
「やります!」
と元気よく答えたが、男優の狩谷は頭から手ぬぐいを被り、麦茶を飲みながら
「おいおい直樹、もう何回撮り直してると思ってるんだよ?俺の精子はもう出ないぜ?と言うか、もう立たないぜ?!」
と答えた。そう、今日のこの撮影で、狩谷は既に5回の本番行為をこなしていた。屈強のAV男優だって1日何回も射精できるものではない。ましてや狩谷は毎日インスタントラーメンばかりすすってる貧乏学生である。いくら性豪であったとしても、身体がもたないというのが本当だろう。
「狩谷!お前は本当に革命戦士か?魂の芸術家か?そんなヤワなことじゃあ、革命は失敗に終わるぞ!!」
 僕はそう言うと、ぐちゃぐちゃになった髪を、さらにぐちゃぐちゃとかきむしった。
「そんなこと言われたって、さすがに限界だぜ?おい直樹、俺がメガホンを持つから、お前が演じろよ!」
「よし!本当の革命魂を見せてやる!!」
 狩谷は呆れてため息をついてたようだったが、僕はそれに全く気づかず、鼻息も荒く服を脱いでいったのであった。

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