かくれんぼ

・作

仲間と動画撮影のために団地の廃墟へと入り込んだ丈史(たけふみ)。彼はそこで一人の少女と出会い、体を重ねるのだが……。

大学生にもなって。
 そう思った。
 だが、案外おもしろいのだ。
 
 大人になってから子供の頃にやっていた遊びを全力でやる。そんなことが無性に楽しくて仕方がない。きっと気の合う仲間と日々のしがらみを忘れて、馬鹿みたいに騒ぐのが堪らないのだろう。
 大学の授業も、就活も、バイトのことも、嫌なことは一時だけ忘れて、丈史(たけふみ)は仲間と遊んでいた。
 
「動画にしようぜ」
 動画サイトにあげて人気が出たら、金も入る。そんな提案に丈史を含めた仲間全員が賛同した。
 カメラを持つ人間をくじで決め、鬼をじゃんけんで決める。
 
「ちゃんと一分カウントしろよ」
 仲間達はそう言って散っていった。
 丈史は一人で敷地の入り口に立ち、スマホのタイマーを作動させる。
 
 彼が立っているのはとある団地の入り口だ。ただし、団地の住人は誰もいない。十年以上前に住人は全て退居しており、現在は廃屋と化している。取り壊すにも費用がかかるせいか、ずっと放置されており、更地にされる気配すらない。
 
 真っ昼間のせいか不気味さは感じない。巨大な化石じみた団地は往時の賑やかさを思い起こさせるわけでもなく黙然と聳えている。
 
 程なくしてスマホが一分を告げた。
 丈史はゆっくりと歩き出す。急ぐ必要はない。なにしろ今回はかくれんぼ。走ったところで隠れ場所が分かる訳でもない。じっくりと探していこうと丈史は考える。
 
 一時間の制限時間で隠れた仲間を全て見つけられれば、丈史の勝利だ。賞品は学食のラーメン、餃子付きである。
 
 伸び放題の雑草を踏みしだいている内に丈史は、他の仲間も同じように歩いていることに気付いた。踏み分けられ、潰された雑草が道のように幾筋か伸びているのである。
 その一つを追い、彼は団地の一棟に足を向けた。
 
 団地は彼が想像していたよりもずっと綺麗で、埃っぽくはあったが落書きの類もなく、硝子が割れている様子もない。しかし、踏み入る人間がいないせいか、砂埃が溜まっている。
 
 そして目を凝らせば、その砂埃の上に薄っすらとひとつだけ足跡が残っていた。詰めの甘い仲間を内心で笑いながら、そっと丈史は団地の階段を上がる。
 
 足跡は三階の一室の向こうへと消えている。
 にやにや笑いながら、丈史はそっとドアノブを回した。軋むこともなく扉はあっさりと開き、微かな埃っぽさと黴臭さを含んだ空気が内部から流れ出す。
 
 三和土には当然のことながら誰の靴もない。
 そっと足音を忍ばせ、彼は土足のままで室内へと入る。室内は入ってすぐにフローリングの洋間が見える。そこに至るまでの廊下には扉がひとつ。その扉をゆっくりと開けると風呂場だった。洋間に辿り着くと、台所と六畳程の和室が現れる。
 
「……っ!」
 和室を見た瞬間、丈史は体を硬直させた。そこには一人の少女がいたのだ。制服らしいブレザーに身を包み、尻が汚れるのにも構わず畳に座り壁に背を預けている。
 

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