かくれんぼ (Page 2)

「えっ、あっ」
 少女も驚いた様子で丈史のことを見た。
 しばらく無言で見合っていたが、少女が不意に笑う。
 
「ここ、立ち入り禁止」
「それは……」
 口籠ってしまったが、丈史はすぐに反論する。
 
「そっちだって、不法侵入じゃないのか」
「あたしは、先住民だから」
「先住民?」
「そう、昔ここに住んでたから」

 退去する前に住んでいたと言いたいのだろうか。恐らく彼女が誕生し、手狭になった両親が引っ越しをしたのだろう。丈史はそう思って頭を掻いた。だが、とっくに引っ越していたのなら、もう入居者ではないのだから、彼と変わらず侵入者ではないのか。
 
 そのことに気付いた丈史は眉間に皴を寄せて、少女を見つめる。すると彼女はさらに笑みを深めた。やっと気づいたのか、と馬鹿にされている気がした。
 
「この辺に誰か来なかった?」
 相手は子供だと自分に言い聞かせ、丈史は話題を変えた。
 
「ここにずっといるけど、誰も見てないよ」
「学校は?」
「ない」

 思わず問うと少女はけろりとした顔で答える。
 
「嘘つけ」
「あはは」

 なにもなさそうだと判断した丈史は踵を返した。
 
「ねえ」
 その背中へ声がかけられる。無視してもよかったのだが、彼は足を止め、振り返っていた。
 
「お話ししようよ」
「なんで?」
「暇でしょ?」
「別に暇じゃない」
「何してるの?」
「……かくれんぼ」

 憮然とした顔で丈史は答えた。子供っぽいことをしていると妙に気恥ずかしくなってしまったのだ。
 
「へえ、いいね。かくれんぼ、楽しそう」

 少女は羨ましそうに言って、自分の隣をぽんぽんと叩く。
 
「少しぐらい、いいじゃない。お話ししようよ」
「分かったよ」

 渋々といった感じで丈史は少女の隣に腰を下ろす。床は埃っぽく、壁も同様だったので丈史は腰を下ろしただけで壁に背を預けることはしなかった。
 
 どうして、かくれんぼをしているの。
 普段は何をしているの。
 どこから来たの。
 
 他愛のない質問をされ、ぽつぽつとそれに答えていく。それだけの時間が過ぎていった。気づけば、少女の手が丈史の手と触れている。
 
 どうしようかと彼は迷った。手が触れているだけで慌てるのは、思春期の男子のようで今さら恥ずかしい。かといってこのままというのもなんだが居心地が悪かった。
 
 丈史は座り直すふりをして、そっと少女から手を離す。だが、何を考えているのか、少女は逃げた彼の手を捕まえたのである。
 

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