ケジメはつけた (Page 3)
パフォーマンスでブン投げて!
西湘バイパスに出ると、道は意外とすいていて邦夫のベンツ改は快調に(法定速度で)飛ばしていった。なにぶん古いクルマなので、コンピュータ関連が現在とは段違いなのでターボユニットをタービンごと換装していたのだ。
タフネスさがウリのメルセデス・ベンツなので、波しぶきが襲ってきても構わずにスピードを維持していたのである。
そうこうドライビングを楽しんでいるうちに、目的のビーチに到着した。途中、ヘルプで駆り出されている4課の大下副課長から電話で“あらまし”を聞いていたので、邦夫は少し気が楽だった。別に楽観視していたわけではなく、これまでの数々の修羅場を考えれば大下に任せても良かったくらいだ。
つまり、沢登の説明を補足すると、起こった事件とは、
“いまひとつ盛り上がりに欠けるので、Tシャツの売り子(ビキニの上に売り物のTシャツを着せたスタイル)に霧吹きで水を少量かけて、水着を透けさせようとして「下半身にまで」誤って水をかけてしまった”事に起因していた。
それだと、若いワレメちゃんがインナー越しにも見えてしまい、撮影可だったために、その画像がツイッターで拡散してしまったのだった。そのグラドルは3人いたうちのひとりで、一番経験が浅くて、精神的にショックを受けたようだった。
水着を撮られるのは承知していたとはいえ「ワレメ」までとは聞いていないので、それは各位が怒ってもしょうがないだろうと思われた。
幸いな事に天気がピーカン(晴天)だったために、水着はすぐに乾き、お客の動員も2割り増し程度で済んだようだった。SNSのザワツキもなかったし。
邦夫は特設駐車場の「関係者専用」のブースにベンツ改を駐めると、会場の陰に直属の部下の大下を呼び出して、いきなり、
「で、どーよ?」
と、聞いてみた。大下も広告畑を渡り歩いたベテランだけあって、
「問題のコには、ウチのワゴンの中で休んでもらってます。代わりにビーチにいた見栄えのするJD2人を捕獲して、売り子のバイトをさせているので大丈夫でしょう」
と、頼もしい答えが返ってきた。水を振りかけたのは、4課の2年目のボーヤで山崎というのも判明した。予想通りであった。
「せっかく来たんだから、各方面にお詫びしに行くか? 案内してくれ」
邦夫はいつもクルマに積んでいるアイテムの中から綿パンに白のボタンダウンを合わせてわざとらしくネクタイを締めていた。足元はデッキシューズだった。
その「お詫びにまわる」衣装で主催の自治体、商店会、全体を仕切る代理店、モデル事務所と頭を下げていった。
自治体からは「公序良俗~云々」とお叱りを受けたものの、おおむねの線で「問題ナシ」となった。当初は怖い顔で腕組みをしてビーチ全体を睨みつけていたモデル事務所の古参女性マネージャーも、渋々ながら謝罪に応じてくれたのだった。
邦夫が提示した「ギャラ全額、明日は担当を替える」という条件に、OKを出したのも大きかったのかも知れない。
それどころか、ジャーマネは、このバイトのJD2人に対して名刺を渡して自社と契約しようとする逞しさだった。それ程、2人はレベルが高く、水着姿も連れてきたグラドルよりも“上”のようだったのだ。
ワレメの件も、
「私たちだったら平気だったのにね」
と、あっけらかんとしていた。
この問題は、捕まえてきた大下を信頼しきっているらしいので、帰京してから詰めるという事で話しはまとまったらしい…。
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