ケジメはつけた (Page 4)
「これで、あとは“お坊ちゃん”だけか」
邦夫と大下は、ベンチャーズ・サウンドに体を揺らしている3課の沢登課長に近づくと、
「このたびは、ウチの山崎が大変な迷惑をかけました。すみませんでした」
そうやって2人して90度に腰を折っていると、アゴで外側を示してついてくるようにジェスチャーをしてきたのである。
コンサートブースを外れて、一般のビーチ上に出たところで沢登は、
「恥をかかせてくれたわね! ここで土下座してもいいんじゃないの?」
沢登は、邦夫の会社に時たま雑誌広告やイベントの依頼をしてくる和菓子屋の息子らしく、もちろんコネ入社。威張り散らすのが得意だが、仕事は苦手なようだ(笑)。
今回は、ろくに謝りもせずに邦夫が到着するまでは近くのホテルのティーラウンジに隠れていたらしい。3課の連中は邦夫が予想よりも早く来てくれたので、胸をなでおろしていた。
「部下がヘマをしたのは事実だが、お前はフォローしてくれたのか? ヘルプという事は、3課に山崎を預けたんだぞ!」
邦夫が強く言ってきたのが想定外で、よほど頭にきたらしく、
「あれ?あれあれぇ?逆ギレェ~?」
邦夫は挑発しながら、
「キャンキャンと煩いんだよ。担当を替えるって事務所に言っちゃったから、山崎が帰るか、お前が帰るか、この場で決めてくれよ」
「何ィ、広告屋の分際で〇✖△(言葉にならなかったw)」
そう叫んで沢登は、砂をひと掴み邦夫に投げつけて目つぶしをしてから殴り掛かってきたのだった。
しかし、そんな子供だましの「目くらまし」は通用せず、テレフォンパンチ(どこにくるのか分かるパンチ)が当たるわけがなかった。
「そ~れ!」
という掛け声とともに、右腕1本で襟元を掴んだ邦夫は「片腕一本背負い」の要領(細かくは異なる)で、海面に沢登を投げ飛ばしたのだった。
周囲は何が起きたのかと唖然とする人、途中からやり取りを見ていてガッツポーズをする人で、ちょっとした騒ぎになりそうになったが「お騒がせしました。これが、普段着でできる柔道の護身術です!」と、大下が叫んでくれたので事なきを得たのである。
遠目に岸壁の上を見ると、相変わらず腕組みをしていたジャーマネが笑いながら拍手をしていた。
邦夫はちゃんと受け身が取れるように背中から落としたので、沢登は無傷。だが、上から下までずぶ濡れ状態だった。
「制作部長を通して、社長まで(話を)持って行くから覚えてらっしゃい!」
と、捨てセリフを残して沢登は実家の資産で買ってもらったジャガーに乗って、帰っていったのだった。
「やれやれ。ところで大下、3課はこのあとどうするんだ?」。
そこに3課副課長の井田が現れて、
「とりあえず、今日はラストまで大下さんに仕切ってもらいたいと思います。明日は現在、制作部長にお伺いをたてていますが、3課の総意としては相川さんに責任を取ってもらうという事で(大爆)」
「井田、いいのかよ。それにオレはリモートワーク中なんだぜ」
「最近のリモートワークって、首筋にキスマークが付くんっすかね?」
「えっっ、シャワーは浴びたぞ、、ブツブツ」
「冗談ですよ。1度、相川さんと仕事がしたかっただけですよ」
と笑いながら、現場に駆け戻っていった。
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