ケジメはつけた (Page 5)
ルームサービス
その晩、邦夫は会場のビーチから少し離れた街場のホテルに宿を取っていた。ほかのスタッフは日帰りして、また明日の早朝に集合するのだが、もともと山荘でノンビリするはずだった邦夫にとって、その日程は体力的に無理だったのである。
海沿いのホテルは料金が高いので見送ったわけだが“自主宿泊”で自腹だから仕方がなかった。そのホテルにしても「セミスイート」しか空きがなく、結局は都内でデリヘル遊び用に泊る時と同じくらいの費用を要していたのだ。
取り敢えずシャワーを浴びて、火照った体を冷まして汗を流すと幾分かは爽快な気分になっていた。バスローブだけの恰好で社長に連絡を取ったところ、
「相川ちゃんなら納めてくれると思ってたよ。なんでも、沢登君は『もう行かない』って喚いて制作部長を困らせているから、このままディレクションしてチョーダイ。それと、モデルのいやらしいところに水をぶっかけた若い社員の処遇は任せるから」
「山崎なら明日も出てくるように言ってありますよ。ビーチの掃除かヤキソバでも売らせようかと考えています」
「わかった。ほどほどにやってくれ。先方の代理店には話しはつけたから」
こうして、邦夫は明日があるので大下が買ってくれた夜食用の弁当を肴にビールでも飲んで寝る事にした。ポロシャツはあるが綿パンの替えはないので、浴槽で洗濯。早朝からアイロンをかけなければならない。
すると大下以外には知らないはずのホテルの電話がなった。
「もしもし、お疲れ様です。Xプロの酒井です」
誰かと思えば、グラドルのジャーマネさんからだった。下のフロント前の内線専用電話かららしい。それにしても、何の用事だ?邦夫はクレーム処理のための裏金を要求されるかも知れないと思って身構えた。
「どうしたんですか? 内緒で泊っているのに」
「大下さんに聞いたんです。『課長は現地に泊る』って」
そういえば、大下がグラドルとジャーマネを駅まで送って行かせて、湘南新宿ラインに乗り換えたらグリーン車を使ってくれといって現金を持たせたのだった。
「それなのにナゼここに?」
邦夫は思ったのだった。
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