禁欲の果て
原田武と伊達凛花は、遠距離恋愛をする社会人同士のカップルだ。2人はもともと近くに暮らしていたが、1年前に武が転勤することになって遠距離恋愛を始めたのである。性的にも相性がぴったりの2人は遠距離恋愛を自分たちなりのやり方で楽しんでいたが、先月急に会えない事態になってしまったことで2人は禁欲生活を始めた。互いに会えない間の悶々とした気持ちが高まった状態で久しぶりに会うとやはり抑えがきかず…
「ちゃんと約束守った?」
原田武は自分の車を運転しながら、助手席に座る恋人の伊達凛花に問いかけた。
車は駅を出て、武の自宅に向かっている。
「うん…武は?」
「守ったよ、だから結構やばい」
「私も…結構やばい」
丈の短いスカートの裾を手で押さえながら、もじもじと凛花は言った。
ふわっと漂う花のような香りは、凛花の香水だかシャンプーだかわからないが、とにかく武の下半身に響く香りだ。
2人が交わした約束は、この1ヶ月間禁欲生活を送るというものだった。
互いに性欲が強く、それを認識し合っている2人だから、それが難しいことだとはわかっていた。
しかし禁欲を経て会った時には、いつもより刺激的な時間を過ごせるだろうという予感もあったのだ。
武と凛花は付き合い始めて3年になる社会人同士のカップルだが、1年前に武が地方に転勤してから遠距離恋愛を続けていた。
新幹線を使わなければ会えない距離に離れることになるのはもちろん互いに不安だったが、別れるという選択肢もなかったし、結婚して凛花の正規雇用の仕事を辞めさせるという選択も、若い2人にはあり得ないことだった。
地方での勤務は3年程と会社から言われていたため、遠距離恋愛を経てまた武が東京で暮らせるようになったら結婚したいと、はっきり口にしないものの2人とも思っている。
近くで暮らしていた頃、2人は週に2〜3回のペースで会っていた。
会う度に必ずセックスをしたし、週末は夜明けまで行為を続けることも多かった。
そうして2年過ごしても相手とそのセックスに飽きないほど2人は相性も良く、また互いの性欲の強さが合っていたのだ。
そんな2人にとって遠距離恋愛は試練かのように当初思われたが、離れて暮らしたこの1年が、何故か性的にはより充実した1年になっていたのである。
会う頻度は月に1度だ。
月半ばの金曜、最終の新幹線で凛花が武の住む街に行き、その駅まで武が車で迎えに来る。そのまま武の家で週末を過ごして日曜の夕方に凛花が帰るまでのほぼ2日間、2人はいつもひたすらセックスをして過ごした。
寝て起きては抱き合い、食事を挟んでまた睦み合う。外に出かけることはほとんどなく、武の家でただ愛し合う週末を月に1度迎えるために、2人はそれ以外の時間を生きていたと言っても過言ではない。
そしてそんな生活に慣れてきた先月のこと。会う予定だった週末、武に緊急の仕事が入ってしまった。
普段は休日出勤が必要になることはない仕事だが、重大なトラブル対応でどうしても土日の出勤で応対せざるを得なかった。
凛花がその連絡を受けたのは会うはずだった前日の木曜で、凛花は思い切り落胆はしたものの、自分以上に落ち込んだ声で電話をかけてきた武を責めることはできなかった。
そして責める代わりにその時凛花が提案したのが、この「禁欲1ヶ月」の約束だ。
遠恋。
まるさん作、推し。
遠恋あるある。
悩めるケミん さん 2022年9月3日