狂笑 (Page 2)

「頼みますよ。返してもらえなきゃ、俺の住む場所も事務所もなくなりますからね」

「あ、あの、それは、あの」

 陸にあげられた魚のように口をパクパクしながら、有理紗があのとうわ言のように繰り返す。

 それを無言で見つめながら、彼は予想よりもずっと相手が動揺していることを知った。

 確かに住宅と事務所の契約更新が迫っている。

 だが、灰島とて何の公算もなく有理紗を助けたわけではなかった。蓄えは十分にある。有理紗に渡した額は確かに少なくはない。しかし、早急に回収せねばならないような切迫した額でもなかった。そういった意味では余裕はあるのだ。

 それをあえて急かしているのは、彼女に対するプレッシャーかけているのは目論見があるからだ。

「まあ、これを機会にギャンブルはやめたほうが良いですよ」

 灰島は有理紗に一般論を適当にぶつけてやる。

 あれだけ負けが込んでいても、やめられず突っ張ってしまうのは、キャンブルに依存し歯止めが効かなくなっているのだろう。

「……はい……」

 顔を引き攣らせ、有理紗は首肯する。

「まあ、それはいいですよ。俺が有理紗さんの人生をどうこうできるわけでもないですから。ただ、金は早く返してくださいよ」

「い、一括じゃないとだめでしょうか、その。申し訳ないんですけど、分割でなんとか」

「だから、俺は月末に纏まった金を使うんですよ。ギャンブルじゃなくて、住処と仕事のために」

 それ以上、何も言えず有理紗は白い顔のままで、また俯いてしまう。

 空々しく二人の間に明るいBGMが流れていく。

 灰島は溜息を吐き、店員を呼ぶとコーヒーをお替りした。店員が去り、再び二人で向き合う格好になったところで灰島はわざとらしく溜息を吐く。

「中井さん、来月末までに返せそうにないですか?」

「すみません」

「じゃあ、俺の仕事を手伝ってください」

「仕事ですか」

「俺はアウトドア系のライターをやってましてね。それを手伝ってほしいんです。女性向けの道具のことを書かなくちゃならないんでね」

「でも、私は、体力がないですし……」

「構いませんよ、中井さんみたいなたまに遊びに出かける程度の人がターゲットの記事ですから」

「でも……」

 躊躇している様子の有理紗を灰島は揺さぶる。

「言っときますけど、これは中井さんに仕事を紹介するとかじゃなくて、労働で返してもらいたいってことです」

「労働で」

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