キュウリ嫌いを直す方法
吐くほどキュウリが嫌いな久志は、愛妻の料理すらも食べられず申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そんなある日、妻の千鶴は彼との情事の最中に彼のキュウリ嫌いを直す方法を思いつく。それは、彼の大好きな恥部から直接キュウリを食べる方法だった。
「ヤだよ。気持ち悪い」
「はあっ? 私が作ったものが食べられないってわけっ?」
「そうじゃないって! 千鶴の作るご飯は美味しいよ。千鶴に食事を作ってもらうようになってから、マジで外食する気にならなくなったんだから」
俺が正直に恥ずかしいことを口にすると、千鶴は肩をビクッとさせた。
顔を真っ赤にして、もじもじと「ありがと」と呟く。
が、ハッとしたように顔を輝かせる。
「だ、だったら、全部食べてくれるよね?」
「ヤだよ」
「ああ! 戻ったっ! ひどい!」
千鶴はぷうっと頬を膨らませて、少し上目遣いで俺を睨みつけた。
マニッシュショートで少年のように見える少女が、頬をぷうっと膨らませて少し太めの眉を一生懸命に寄せている。
けど、全然怖くない。
むしろ俺は、その細い首や丸い肩、襟元から見える白くて滑らかなデコルテやショートパンツから覗く肉付きの良い太股に興奮する。
「もう……。そんな年になってもキュウリが食べられないなんてさあ」
声を荒らげて少し気が済んだのか、千鶴が半笑いになって呆れたように呟いた。
俺はホッとして、皿の上のキュウリをそっと端に寄せる。
「ダメ! 食べなさい」
「えっ? ヤだよ!」
「子供じゃないんだから、食べなさい! はいっ、あーんして!」
「嫌だってば!」
「もう! 可愛い新妻がせっかく作ったんだから、食べてよ!」
「俺だって食べたいけど、無理なんだよ!」
箸で摘んで口に入れられそうになるのを、唇をぎゅっと結んで拒否する。
無理やり口に入れられたキュウリを噛んだ途端、青臭い臭いが鼻を抜け、何かが込み上げてきた。
「ぐえ」
「え?」
俺は慌ててリビングを飛び出し、トイレへ向かった。
*****
トイレから出て手を洗っていると、鏡の向こうに神妙な面持ちの千鶴が立っていた。
悲しそうな、申し訳なさそうな、苦しそうな顔だ。
「……ごめんな。全部出ちゃった」
「ううん、いいの。こっちこそ、ごめんなさい。そんなにダメだったなんて思わなかったから」
「ちょっとづつ慣れてくからさ」
「うん。ごめんね」
切ない笑顔でまた謝る千鶴に、少しばかり胸の奥がチクっとする。
なんで思い切って飲み込まなかったのか、数分前の自分を殴りたい。
「あーあ、千鶴が作った食事、みんな美味しかったのに勿体無いことしたなあ」
「も、もう、急に何よ」
鏡の中で、千鶴がはにかんで俯いた。
やっぱり笑ってる千鶴は可愛い。
「……あ、そういえばデザートがまだだったよ」
「え? デザートなんて、ないーー」
「とびきりのデザートだよ。全部食べちゃおっかな」
そう言って振り返ると同時に、俺よりも頭ひとつ分小さな華奢な身体をぎゅっと抱きしめる。
「きゃっ!」
千鶴は悲鳴をあげたが、逃げる素振りも見せずおとなしく俺の腕の中に収まっていた。
そして、胸に頬を寄せたままコクリと頷いた。
*****
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