生意気アイドル号泣土下座 (Page 5)

「謝るんならカラッポの頭くらい下げろ」

「あうぅ…!」

床に置いたカメラの前で、頭を押さえて強制土下座。

だがそれからもごめんなさいばかりで要領の得ない謝罪を繰り返すから、最終的には殆ど俺が台詞を考える羽目になった。

「…千夏ちゃん…ボ、ボク…可愛くて性格も良くて、一番人気があった千夏ちゃんが羨ましくて…ひどいことして申し訳ありませんでしたぁ…!ぇう…うっ…」

「そんなお前を応援して下さったファンの皆様には一言もないのか?」

どちゅっ、と腹の中を抉るように奥を突く。

「ひんっ…!ファ、ファンのみんなっ…ボクは…自分より目立つメンバーは…イジメ倒して辞めさせるゴミクズなんですぅ…!今まで騙しててゴメンなさい…!」

「で、ケジメとしてこれからどうするつもりなんだ?」

「…っ…い…引…」

「今からこの映像全世界に生配信してもいいんだぞ」

「いっ、引退しまずぅ…!ごべんなさいぃい、許して、お願い…!」

涙と鼻水とヨダレでぐちゃぐちゃになった顔をぐりぐり床に擦り付けさせ、仕上げは勿論たっぷり中出し。

「ゃ、あ…!!…ぅ…うぅ…ひ、どいよ…ううっ…」

 

帰り際、ゴシップ雑誌の編集部が入るビルを通りかかった俺は、つばさを追いかけているうちにたまたま撮影した若手俳優との密会写真をうっかり郵便受けの中へ落としてしまった。

巻き添えを食らった俳優君には申し訳ないが、ああいう図太い人間は一晩眠ればケロッと忘れて、のうのうと芸能活動を続ける可能性があるのだ。

「…さよなら、水無月つばさちゃん」

 

翌日のネットニュースで、『国民的アイドル水無月つばさ、熱愛発覚で脱退!芸能界も引退か』という見出しを見たが、記事を開いてみるほどの関心は湧かなかった。

千夏が病院のベッドで奇跡的に目を覚ましたのは、それからすぐの事だ。

俺たちは今、田舎の小さな農村に移り住んで、やっぱり裕福ではないがのんびりと暮らしている。

「…これ美味いなぁ。うち、スイカなんて植えてたっけ」

「ううん、スマホの使い方を教えてあげたら、お隣のお爺さんがくれたんだ。お孫さんとテレビ通話したいんだって」

「あはは、そうか」

夕暮れの農道を泥にまみれた軽トラが走っていった。

荷台に乗った子供が元気よく手を振り、俺たちも手を振り返す。

「役場の近くに住んでる悪ガキだ」

「何でそんなこと言うの」

「この前ボールで窓割られたからな」

「ふふっ」

千夏はスイカの皮を置き、俺の肩に頭を乗せた。

「…幸せだね、お兄ちゃん」

(了)

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