夏の終わりを無作為に過ごす (Page 3)

 携帯を確認した彼女の慌て方を目の前にして、声をかけるか躊躇ったが、もう正体を明かしてしまっているんだ。

「こんにちは…。」

「あ…初めまして…。」

 挨拶はしたが、どことなく気まずい雰囲気が流れる。
 
 文章の感じから、もっとおしとやかな暗い感じの女の子だと思っていたが…。
 
 目の前にいるのは、茶色よりもっと金色のウェーブのかかった髪に、肩を出した半袖。
 
 動いたらパンツどころかお尻が見えそうになるくらいに食い込んだ短いジーンズ、これがしょーぱんなのか?
 
 テレビで見るようなギャル。大人びた印象だが顔つきは幼い。
 
 本気で死にたいと言うようなタイプには見えない。
 
「あはは…ごめんね?おじさんだって気付かなくて。」

「それは、こっちも同じだから。君みたいな見た目の子があんなメールを送ってくるなんて思わなかったから。」

「まあ…そうだよね?見た目じゃそうなるよねー。」

 彼女の顔に少し陰りが見えた気がする。
 
 日焼けした肌とはいえ、健康的かと言われてもそうとは限らないだろう。
 
 元々、明るい理由で集まったわけではない。
 
 これ以上、余計な詮索はせずに目的を果たした方がいい。
 
「ねぇ…おじさん…ここだと人が多いからさ。あの島に行かない?」

 沖合にある島、有人島ではあるがここから出ている定期便は1日数本だ。
 
 まあ、今更帰りの心配をする必要もないか…私達はその島を目指して定期船に乗る事にした。

 「…一応、自己紹介とかする?最後を一緒に過ごすんだから名前くらい…知りたいよね?」

 島に向かう船の中で少し自己紹介をした。

 彼女の名前はカレンというらしい。
 
 海岸からそう遠くないところに住んでいて、この島も子供のときからの遊び場らしい。

「おじさんは、なんであんな書き込みをしたの?」
 
 普通なら聞きにくい事なのだが、今どきの子はすごいな。

「会社をクビになってね。家族に打ち明けるくらいなら、このまま何も言わずに死んだほうがましだと思ったんだ。」

「家族と仲が悪いの?」

仲が悪いか…どうだろう?そんなことを考えながら話をしたことはないな。
 
 そもそも、子供と話をしていただろうか?
 
 家にいてもテレビをみたり、携帯をいじっていたり。
 
 家族らしい会話みたいなものは、無かったかもしれない。

「そうだな…悪かったかもしれないな。今思い出しても、家族らしい会話をした記憶はないなぁ。」

「そっか…一緒だね。わたしも親と仲悪いんだ。毎日ね、何度も何度も同じことを言ってきて…こっちは分かった!って言ってるのに…見た目だったり、行動だったりいちいち突っかかってくるんだよね。」

「それは、親御さんに心配されているだけだろう。」

 自分の子供が好きならば、少しでも幸せになれる生き方をして欲しいと思うなら、言い過ぎてしまうのは当然のことだろう。

「こっちの話を聞いてくれるならね。なにも聞かずに頭ごなしに、否定してくるから、もう顔を合わせるのも嫌なの!わたしだって言いたいこともやりたいこともいっぱいあるんだからさ!」

「だから…死のうと思ったのかい?」

「うん…。」

 正直に言ってしまえば、私の死にたい理由からしたら彼女の考え方など、甘いとしか言いようがない、駄々をこねているのと変わらないだろう。

 いい大人なら、ここで死んじゃだめだと説得を始めるのかもしれないが、私には彼女を諭すような言葉は出てこなかった―――。

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