熱を求める (Page 3)

「あ、もう本当に、このぐらいしておかないと」

 誠一郎は腕時計を見て、日付を跨いでしまったことに気づいた。いくら故人の話を聞きたくとも、無理をさせるわけにはいかない。

「そうね。そうしましょうか」

 名残惜しそうに貴子が応える。

 誠一郎は空の湯飲みをお盆に乗せ、立ち上がった。

「これだけ片付けてきます」

「わたしも手伝うわ」

 二人で台所まで行き、流しに茶碗を誠一郎が置いた。その間に貴子はお盆を食器棚に戻す。

「あっ……」

 誠一郎は胸を鷲掴みにされた心地になった。

 いつもしていたことだった。当たり前のように二人で、黙って支度も片付けもやっていた。それは誠一郎が家を出て、たまに帰省したときにも変わらなかった。

 思い出を作るために、特別なことなどなにも必要なかったのだ。

 親子で共に過ごした時間が、どうしようもなく誠一郎の中に遺されている。父との記憶こそが、思い出と呼べるものだった。

 気づけなかければよかった。

 誠一郎は後悔する。知らなければ、こんなふうに胸の奥底まで抉り取られたような、喪失感を味わわずにすんだのに。

 不意に鼻の奥がつんと痛む。泣くのだと彼は思った。恥ずかしいとも思ったが、どうしようもなかった。涙が次から次へと落ちていく。

「すみません。こんな」

 貴子は黙って誠一郎の背中を撫でた。ワイシャツ越しに彼女の体温を感じる。それは生きている人間の持つ熱だ。死んだ人間からは決して得られないもの。

 胸の内側にぽっかりと空いた空隙を埋める方法を誠一郎は悟る。

 許されるかどうかなど、考えもしなかった。今はこの隙間を埋めたい一心で、誠一郎は貴子の手を握った。彼女は嫌がらない。されるがまま誠一郎が泣く姿を見つめている。

 けれど、埋まらない。これだけでは埋められない。

 身の内に生じた激情に任せて誠一郎は貴子を引き寄せ、抱き締めた。彼女の体が腕の中にある。密着した体から体温が感じられた。身をよじって貴子が逃れようとする。

 逃がさない。

 その思いだけで誠一郎は貴子を床に押し倒した。胸の奥に空いた隙間を埋めるために、生きている者の体温を求めていた。それなのに、いつしか誠一郎は貴子を求めている。

 涙は止まっていた。

 揺れる瞳で貴子が誠一郎を見上げていた。上げていた髪が乱れ、広がっている。ゆっくりと誠一郎は顔を近づける。唇を触れ合わせる。それだけでは満足できなかった。彼女の閉じられた唇へ自らの舌を差し込み、口内を舐る。

 お互いの吐息が至近で交り、気づけば貴子からも舌を絡めてきていた。

 貴子の唇から離れ、誠一郎は首筋に舌を這わせる。吐息だけでなく、小さな声が彼女の口からこぼれた。

 スカートの中へ手を潜り込ませ、割れ目に沿って秘所を愛撫する。

「あぁ……っ」

 ストッキングと下着の上から愛撫を続けると次第に彼女の声が艶を帯びていき、淫らな響きが強まる。そして手足をぴんと強張らせ、ひときわ声を高く上げた。

 軽く達した貴子の耳を甘噛みし、誠一郎は固く張り詰めたものを彼女に握らせる。貴子は躊躇うこともなく、彼の怒張したものを上下にしごく。背中を撫でていたときのような優しい手つきでありながら、男を悦ばせる淫らさを感じられるそれに誠一郎は思わず呻いた。

 彼女に自分のものをしごかせたまま、誠一郎はストッキングを乱暴に裂く。暴力的な行為に興奮していることを自覚しながら、彼は貴子の秘所へ直接触れる。熱い。溶けているように蜜で濡れ、男を迎え入れることを待ちわびているようだ。

 陰核を指先で焦らすように弄ぶ。こりこりと感触を楽しみ、誠一郎は貴子からの言葉を待つ。

「……お願い。ほしいの。意地悪しないで」

 待ち望んでいた言葉を得られ、誠一郎は貴子の秘所へと張りつめたものをあてがう。ぬめりを楽しみ、入り口を刺激するだけで彼女は喉を反らせて悦ぶ。

 もう少し反応を楽しみたい気持ちももあったが、誠一郎自身が我慢の限界だった。

 貴子の中へと侵入する。

「んひぃっ」

 一度奥まで挿入しただけで貴子は四肢を強張らせ、膣をうねらせた。膣が律動し、動いていなくてもしごかれるような快感が誠一郎の背筋を這い上ってくる。

 理性を飛ばしそうになりながら、彼はリズミカルに貴子を攻め立てる。

「おねかがい……優しくして。イキすぎて、とまらないの」

 快楽で蕩け、熱に浮かされたような声音で訴えられ、誠一郎の理性が弾け飛ぶ。獣のように腰を打ち付け、貴子の嬌声で耳からも快楽を得た。

「出るっ。出る!」

「出してっ、中に、一番奥に」

 腰が抜けるような快感が脳天まで突き抜けた。

 限界まで腰を密着させ、最奥に精を放つ。

 ぐったりと脱力し、誠一郎は貴子の上に倒れ込む。彼の下では貴子が腰を痙攣させ、絶頂の余韻に浸っていた。

 誠一郎は貴子を抱きしめ、胸の内側にあった空隙が埋まっていくことを感じていた。

 死んでいる者に生きている者は救えない。

 生きている者を救えるのは、同じ熱を持つ生きている者だけだ。

 誠一郎は密やかに涙を流し、さらに強く貴子を抱いた。

(了)

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