盗まれた青い薔薇の行方 (Page 2)
「一分で行く。出せるようにしといてくれ」
「りょーかい」
若い娘の声がすぐに帰ってくる。
事前に調べていた最短ルートを使い、辿り着いた鉄扉を澤木は躊躇いなく押し開けた。外気が流れ込み、頬を掠めて通り過ぎる。潮気を含んだ風だ。遠景にはちらちらと瞬く人工の光がある。それを遮り、一台のバンが彼の前に滑り込んできた。後部座席のドアを開き、澤木は素早く乗り込む。
ドアが閉まり切るよりも早くバンは発車する。
運転席にいるのは眼鏡をかけた生真面目そうな若い娘だ。
「先生、お疲れー」
表情は凛としたままなのに、口調だけがやたらと軽い。まるで別の人間が喋っているかのように激しく乖離していた。澤木はそんな娘の様子を一瞥するだけだ。
「大分、板についてきたな」
「そう?」
「ああ。口調も揃えりゃ完璧だがな」
「えぇー、だって今は聞いているの先生だけじゃん」
「もう一人いるだろうが」
背中から下ろした女に視線を投げ、澤木は女に羽織らせている上着の前を掻き合わせた。
「鈴鹿(すずか)、真っすぐに待ち合わせの場所まで行くなよ。ちゃんと迂回しろ」
「どれぐらい?」
澤木はちらりと娘――鈴鹿の横顔を見てから、運転席へ軽く身を乗り出して彼女の肩を叩く。
「お前に任せる。頼んだぞ」
「りょーかい」
少しばかり声を弾ませ、鈴鹿はハンドルを切った。
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