母子再会と10年前の落とし前 / オンナ絡みの揉め事解決屋 2 (Page 3)
準備は終わった
事案自体は単純なモノだ。要は、連れ去られた子供2人を母の元に連れ帰すだけの事なのだから。「連れ戻した段階で、雑賀さんの仕事は終了です」。
「その代りに」とブリーフケースから書類をだして、契約書ならぬ念書にサインをさせられたのだった。
そこには、
・A社(弁護士事務所の事ね、便宜的に)とは関係ない事
・木次家(洋子の実家)ならびに本並洋子氏との関連性を一切口外しない事
・調査中の得た情報の守秘義務は厳守の事
これらの内容が法律用語独特の言い回しで書かれてあった。
ひと通り目を通した俊一は、「一切口外しない」という項目に、「A社に私が申請した助手を除いて」と加えてもらえればサインすると申し出たのだった。
俊一は探偵社時代の後輩・里美やその他数名を助手に雇う場合もあり、その時には事案の概要を隠さないからだった。
「いいですよ」と所長はその場で万年筆で訂正を入れて、私に念書を手渡した。この事務能力と決断の速さからして、“意外とできる”人間のようだ。
そうして「木次家の案件」に着手したのだ。妻の洋子が言うように子供に慕われているのなら、“ここぞ!”という時に現れてもらえばいい。そして、今度は木次家の実家へ逃げ込めば一件落着である。
とりあえず俊一は、助手の件を里美に打診してみた。すると、
「ありがとう、俊さん。これで夏休みに家族旅行できるわ」
と言って喜んでいた。そもそも里美は俊一がAV監督時代からのつきあいだ。知り合った当時は俗に言う“企画モノ”のセクシー女優をやっていた。
それが、「ある朝、目覚めたら辞めたくなった」(本人談)という理由で静かに引退したのだった。AV業界を辞めた時期が俊一と重なり、「行くアテもないし、私も同じところに就職できないかなぁ」と相談を受けてめでたく探偵になったというわけだ。
彼女は撮影中も泣き言ひとつ言わない芯の強いセクシー女優だったが、探偵になってもメンタルは強いままだった。張り込み中の「野外放尿」も辞さない心構えだったので、メキメキと頭角を現していったのである。
ほかにも俊一が「自分の事は最終的には自分で守っていかなきゃヤバイぞ」と教えると、すぐさま女優をやる前のスポーツインストラクター時代のツテで実戦空手の道場に入門したのだから、肝が据わっている。
俊一も大学を中退するまでは実戦空手(里美とは別流派)と日本拳法、大学をやめて数ヵ国を放浪中にはサンボ、ブラジリアン柔術をやってきたのが今の仕事に大いに役立っている。
やはりフリーランサーたるもの、体術と健康は切っても切れないという事か。今回の案件では里美の腕っぷしは必要ないかも知れないが、頼もしい限りだった。
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