母子再会と10年前の落とし前 / オンナ絡みの揉め事解決屋 2 (Page 6)
決戦の靭帯責め
洋子の娘が里美から受け取った封書には、2枚の便箋とシートのままのデジカメのup写真が添えられていて、便箋には、
「突然、驚かせてしまってごめんなさいね。ああするしかあなたへ連絡する方法が思い浮かばなかったの。
パパからどう聞かせられているかは知らないけど、私はあなた達を捨てて家を出たのではないのよ。同封した写真でも分かるように、パパの浮気癖が一向に治らないから「いい加減にして」と意見をしたら家を出されたのが真相なの。
だから私は、パパはどうでもいいからあなた達と一緒にいたい。
きょう、あなたへ手紙を渡してくれた人達が明日、あなたと航平を連れ出しに尽力してくれるから~…etc」
と書かれた洋子からの直筆のメッセージと、明日の手順が書かれた別の便箋も同封されていたのだ。
写真は本並が秘書課の淳子の部屋から出てくるところや、クラブの愛人とホテルに入っているショットをまとめたシートが添えられていたのだった。
娘も来年には高校生になるので、父親の異性問題については母親に同情していた面があった。それに何よりも、祖父の前で「一人前の男」として認められていない姿を見て幻滅もしていた。
それで、洋子の作戦に乗る事にしたのだった。
それも決行は明日・土曜日の昼間。娘には分からないが、昼間にするには“大人の思慮”があるのだろうと思ったのだった。
そして、いよいよ土曜日。
父の本並はゴルフと称して、どこかの愛人と過ごしているだろう事は処女の娘にも容易に想像できた。娘は作蔵に、
「買い物に行きたいから、室井と山本(負傷した、もう一人のボディガード)にクルマを出してもらってもいいでしょう?」
と、甘えてみせた。それまでは、ボディガードが付くのを嫌っていた2人だが「ようやくオレの気持ちを分かってくれたか」と、本並建築の総帥・良一は相好を崩していた。
「あまり遅くならんようにな。お金が足りなかったら、室井に言いなさい」
「は~い」
こうして駅前から少しだけ外れたショッピング・モールへ向かったのである。
娘は洋子の指示通りに、まずはレンタルDVDショップへクルマを着けさせた。レクサスはリアウィンドウを割られたために、今日は社用車のクラウンだった。
「ここはすぐに終わるから、そのまま路駐で待ってて」
山本を残して娘と弟、そして室井が店へ向かうと入口とは違う出入り口ですぐに店を出た姉弟は、そのままスタスタとモールを離れていった。
ここは田舎町なので、モールから少し距離を取っただけで人気が極端になくなる。それに土曜日なので、姉弟が入っていった月極駐車場はガランとしていた。
「お嬢さん、どこへ行く気ですか?」
室井が慌てて尋ねても、返事はこない。それどころか、里美が車影から現れて2人を連れて走り出している。その先には、遠目ではっきりしないが洋子が待ち構えていて、再会の抱擁をしていた。
予定ではこのあとは、俊一のR34型スカイラインGT-Rで、木次家までかっ飛ぶ手はずだった。
「きのうのアマめ、どういうつもりだ!」
室井も走りながら山本を呼び出そうとスマホを手にしたのだが、
「おっとぉ~、巡査部長殿の相手はこちらですよ」
と言いながら、軽快なフットワークで近づく俊一が迫っていた。
柔道家相手に上着は危険なので、上半身は襟ナシのヒートテックを着ていた。
「もう、お忘れでしょうけど、真夏の駅前で喰らった“体落とし”の借りを返しにきました」
俊一はフットワークこそボクシングの動きだったが、パンチは日本拳法の直突きで左足を踏み込んでは左のストレート、右足を踏み込んでは右のストレートを合わせていった。
その間にも、室井は柔道家らしく左右の引手で襟・袖を捕まえにきたが、俊一はパァ―リングでかわして引手を取られないようにした。
それにしても、あらためて正面で対峙すると“圧”が凄い。これが、代表クラスの迫力かと、感心していた。
「駅前って、大宮か?そうか、あの時のエロビデオ屋か!」
と言うや「オレに勝てるのかよ。気絶して泡吹いてたガキがよぉ」と呟きながら1歩距離を詰めてきた。
室井は過去を思い出して、精神的に優位になったつもりだったのだろう。俊一が「釣り」で放った大振りの左直突きに対して、外側から腕をねじ込んできて襟を掴んできたのだった。
その時に2人は同時に「ニヤリ」とした。室井は、やっと引手で襟首を捉えてこれから技に入れるだろう事に対してだ。
しかし、俊一の「ニヤリ」は、その室井の腕を巻き込むように捉えた事に対してだった。
室井の腕をからめたまま左回りに回転しながら飛んだ俊一は、中空のまま室井の右肘の靭帯を思いっきり捩じったのである。
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