大家さんは未亡人

・作

坂本亮は、自宅アパートの大家で美貌の未亡人である大浦早苗に恋をしていた。しかし1ヶ月前に早苗の部屋を訪れた際、男との情事を終えた姿の早苗に遭遇してしまい、心を乱されていた。早苗の相手が同じアパートの冴えない男性と知り、いてもたってもいられなくなった亮は早苗の家を訪ねて事の真相を尋ねるのだが、実はアパートの住人と早苗は交際をしているわけではなかった。事情を聞いた亮は早苗の誘惑に堪えきれず…

坂本亮が緊張した面持ちでインターホンを鳴らすと、数秒あけて中から「はあい」という声が聞こえた。
おっとりとした柔らかいその声に、亮の心は蕩かされる。いつもそうだ。

ドアを開けて顔を覗かせたこのアパートの大家である大浦早苗は、亮の姿を確認するといつもの柔和な笑顔を見せた。

「坂本さん」

「あ…えっと、家賃を」

早苗はTシャツとデニムパンツというカジュアルな服装だった。
化粧もほとんどしておらず、黒髪を引っ詰めただけの髪型も飾り気がないが、それでも早苗の自然な美しさは際立っている。

「ありがとうございます、今月分も確かに…」

家賃を入れた封筒をおずおずと差し出した亮から受け取り、早苗は中身をその場で確認した。

「坂本さんも振替でなくて大丈夫なんですか?」

確認し終えて無言で頷く仕草を見せた早苗は、亮の顔を見上げて小首を傾げた。
こういう細かい仕草が、自分より年上の女性だとは思えないくらいかわいらしく亮には見えていた。

「はい…」

家賃の支払いについて、大家である早苗に手渡しと口座振替のどちらがいいか最初に尋ねられた時に亮は迷わず手渡しで払う方を選んだ。
今時珍しい支払い方だが、初めて会った時から早苗に一目惚れしていた亮にとってはむしろ都合のいい方法が選択肢として提示されて嬉しいくらいだった。

「そうですか、ではまた来月お待ちしてますね」

にっこり笑って早苗がドアに手をかけた時、亮は思い切って声をかけた。

「あの…ちょっと、お聞きしたいことが」

「…はい?」

早苗は動きを止め、亮の目をじっと見た。
少し眉根を寄せて困ったような表情をして見せる早苗は、これから亮が話そうとしていることがわかっているようだった。

「…中に入られますか?」

「っ…いいんですか」

「どうぞ」

少し曇った顔のまま、早苗は亮を部屋の中に入れた。
亮は、この1ヶ月間何度も何度も考えたことを、やはりどうしても本人に尋ねなければという覚悟を決めてここに来ていた。
こわばらせたままの表情で、亮は室内に入っていったのだった。

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