大家さんは未亡人 (Page 4)

「それで、聞きたいことというのは」

テーブルにお茶を出して、早苗は変わらず浮かない顔で尋ねた。
亮は緊張したが、それでもしっかり早苗の方を見て言った。

「あの…先月僕が家賃をお渡ししに来た時のことなんですけど」

やはりそうかというように、目をやや眇めて早苗は俯いた。

「はい」

「あの…大家さんって、お付き合いされてる方がおられたんですね?」

「…」

これで仮に早苗から嫌われたとしても、どうせあの男と付き合っているのならどの道フラれる。
ならば同じことだし、自分の気持ちをぶつけて少しでもスッキリしたかった。

「違ったら訂正してほしいんですけど、その、お相手ってここの203号室の田中さん…ですか?」

「…」

早苗は少しの間黙った。やや躊躇っているようだ。
確かにあまりに不躾な質問だと自分でも思う。
しかし、顔を上げた早苗の瞳は、先ほどまでとは違うエロティックな色が入っているように見えた。

「お付き合いはしていませんよ」

早苗の瞳の変化に亮がはっとしている間に、早苗は話し始めた。
その声には覚悟と誘惑が滲んでいる。

「え?」

「先月坂本さんがいらした時にこの部屋の中にいたのは確かに田中さんですし、お察しの通りのことをしています。でもそれは交際しているからではなくて、田中さんが支援してくださるからなんですよ」

ごく何でもないこと、というように早苗は言葉を続けた。

「後家になった30の女がひとりでアパート運営するということは、若いあなたが思うほど楽なことじゃないんです。ひとりで生きていこうとする女にこの国は冷たいの。だから支援してくださる方にはお礼しなくっちゃ」

早苗の口調は普段と違うくだけたものに変わっていた。露悪的に見せているのだ。
予想外の告白に、亮は気圧されていた。

「…がっかりした?優しくて綺麗な未亡人の、憧れの大家さんだったのに…こんなビッチだったなんてって?」

「…」

今度は亮の方が黙る。

「金で股を開く女なんだって、見下してる?それとも、やれるんなら俺もやりたいって感じ?」

誘惑するように、早苗はベッドに腰掛けて潤んだ目で亮を見た。
その目は、本気で言っているようにも、強がっているようにも見える。

「そんな…」

亮は、頭では早くこの部屋を出なければと思っていた。そして早苗への恋心はきっぱりと諦めて、適当な部屋を探してこのアパートを退居することが正しいと理解している。
しかし、早苗の誘うような眼差しと部屋中にひろがる淫靡な空気に飲み込まれ、動くことができない。

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