出張の相部屋で (Page 2)

「やっぱりダメだ、これは」

散々押し問答を繰り返して、ぐったりした和幸が根負けした形で2人で部屋に入った。
しかしビジネスホテルならではの狭いツインルームに実際に入ると、あまりに距離が近いことに和幸は抵抗感が生まれた。

「課長、もう観念してください」

茜に促されるまま先にシャワーを浴びて、茜が後からバスルームを使っている間、片方のベッドに腰掛けて頭を抱えていた和幸にシャンプーの香りを漂わせながら現れた茜が声をかけた。

「大丈夫ですって、なんにもしませんから」

何故だか少し嬉しそうな、浮かれたような声で茜は言った。
顔を上げた和幸の目に飛び込んできたのは、前あきのシャツワンピースのようなホテルのルームウェアを着た茜のあまりに無防備な姿だった。

「当たり前だ、冗談が言える元気は残ってるんだな」

眉根を寄せて顔をしかめた和幸は、あきれて小さく息を吐いた。

「…やっぱり課長、嫌でしたか…?」

「良いとか嫌とかじゃなくて、許されないだろ、こういうことは」

まともに茜のことが見られなくて、目を逸らして和幸は言った。
真面目に仕事に取り組んで、こつこつ地道に出世してきた。
真っ当な上司であろうと心掛けてきた。
しかし和幸も聖人ではない。この状況で良からぬ想像が全く出てこないと言えば嘘だ。

「…良いとか嫌とかで、答えてください」

「は?」

詰め寄るように、茜は和幸に近づいてきた。

「私と一緒の部屋で寝るの、嫌ですか?」

茜はそのまま和幸の隣に座って、和幸の手に自分の乗せた。

「っ…やめなさい」

「私のこと…嫌ですか?」

茜は和幸の手を取り、自分の頬に持っていく。

「こういうの…嫌ですか?」

柔らかい茜の頬はしっとりと上気している。若い女の肌だ。
風呂上がりのすっぴんでも、くっきりした目鼻立ちがよく分かる。

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