次はあなたがシャッターを (Page 4)

 そんな彼女がいつも散歩に行くのは郊外の整備された小さな森だ。

 子供向けの絵画教室を運営している暁紀は、腕を鈍らせないように度々そこでスケッチを行っている。大ぶりなリュックの中にスケッチブックと鉛筆、軽量の折り畳みチェア、水筒と軽食などを入れ、黙々と一人の時間を過ごす。

 もっとも、今回まの目的はスケッチだけではないのだが……。

 その日も暁紀は森に入り、適当な場所を見つけて腰を落ち着ける。
 今回スケッチするのは苔むした倒木だ。
 鳥の囀りや風が枝葉を揺らす音。微かな虫の声などは、暁紀が集中していく過程で意識から排除されていく。鉛筆の芯が紙面を擦る音だけが意識に満ち、視界にあるものを写し取るための存在へと自分が変化していくのを彼女は心地良く受け入れる。

 だが、どうしたことか。

 その集中の心地良さにノイズが混じる。
 外界からではない。自らの内側で、集中を阻害するものがあった。腹の奥底で、ぐつぐつと煮え立っているのだ。それを地中に隠れて滾るマグマと喩えるなら、地中で噴火の時を待ち圧力を高めているのが分かる。

 何度か頭を振って集中しようとするが、どうしてもできない。
 遂に暁紀は溜息を吐き、スケッチブックを閉じた。

 カリカリと神経質にスケッチブックの端を爪で削り、解消されない苛立ちを行動として消化する。
 SDカードに収められていた過去の自分を見てから、どうしても夫との交わりでは満足できなくなっていた。

 元々とのセックスは情欲をぶつけ合う激しいものではなく、お互いの体温を感じ深く愛し合うための行為の延長だ。だからこそ愛し、愛されていると確認できる精神的な充足はこの上なく得られても、肉体の疼きを抑えるには程遠いのである。

 周囲には人はいない。
 今までスケッチをしていても、誰かが現れたこともない。
 その事実が暁紀の手を移動させる。
 まるで変態だ。暁紀は内心でそう自分を皮肉りながら、スケッチブックの下に隠した足の間へ手を差し込む。ジーンズの上から股間を揉むように刺激する。

「んっ、はぁ、あぁ」
 吐息に混じって小さく声が漏れた。

 椅子に座ったまま爪先立って足をぎゅっと絞り、割れ目を丹念に揉みしだく。もどかしい刺激が暁紀の腰をくねらせる。ジーンズの硬い生地の奥にある柔肉が次第に熱を帯びるのが分かった。

 ふうふうと息を荒げ、瞳が淫欲に潤む。だが、どうしても一線を越えられるような強烈に刺激がない。我を忘れるような快感には程遠い状態だ。苛むような快感の小波が寄せては返す。

 ――ぱきっ。

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