汚れた手で、得たものは (Page 3)
「頑張って、親孝行してね」
「はい。今日は、ありがとうございました」
私は愛斗に3万円を支払い、最後に軽いキスをした。
「またね」
「はい。可能なら、名前をお聞きしてもいいですか?」
「桔梗(ききょう)だよ」
彼は「素敵な名前ですね」と言い、「よければ次回も指名してください」と告げた。
私はそれに答えず、笑顔で彼に手を振った。角を曲がったところで、デートクラブの電話番号が書かれた紙をビリビリに破いて捨てた。
まるで、桜吹雪のように、紙はヒラヒラと舞っていった。
見上げた空には大きな満月が浮かんでいて、全世界の人々を見守っているような温かさを感じた。
私が子供を捨てたのも、ちょうどこんな晩だった。
風俗嬢として働く中、どうしてもお金が欲しくて店に内緒で本番行為を繰り返していたことがある。
誰が父親なのかは見当もつかなかった。
妊婦も働ける風俗店でギリギリまで勤務した後、当時住んでいた安いアパートで一人で出産した。
私は子供をタオルで包み、『この子を幸せにしてください』と手紙を添えて深夜の病院に置き去りにした。
最後に子供の顔をじっと見つめると、左の目尻には泣きぼくろがあった。
私の左目と、同じ位置に。
子供を捨ててからも、私は風俗を世界を抜けるつもりはなかった。
キャバクラをいくつも経営する夫と結婚し、子供を作らずに夫婦生活を続けている。
幸せかと問われれば、私は頷くだろう。
自分の捨てた子供と、交わったとしても。
私は自分の泣きぼくろをそっと撫でたあと、再び夜のネオン街に向けて歩き出した。
何かから逃げるように。彼の幸せを、願うように。
(了)
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