夜よ、どうか明けないで (Page 3)
「そういえば、大学どうするの?」
何気ないふうで小槙に訊ねられ、良太郎は手を止めた。停止してしまった手を誤魔化すように眼鏡の位置を直し、プレイを再開する。
「別に、特に希望とかないし、入れそうなとこ」
「ふぅん」
ちらりと小槙の様子を横目で窺えば、彼女は耳たぶを揉んでいた。それは彼女が何か言いたいけれど、言い出せない時の仕草だと良太郎は知っている。
「そっちは、どうするの?」
「どうしようかなって」
「迷ってる感じ?」
「……うん」
小槙の手が止まってしまう。
それでも二人は動きの止まったキャラクターを見つめ続けた。お互いに向き合うだけの勇気はない。灯りのない部屋の中で体を重ねることはできても、相手を支えるだけの強さはなかった。
ゲームの中では現実に追いつこうとするかのように日が暮れ、月が空高く昇っていく。現実とは違い、優しい色合いの月の光が降り注いでいる。そのまま放置しているとキャラクターは野生動物に襲われ始めた。早くプレイを再開しなければ、費やした時間が無駄になってしまう。
しかし、二人は画面を見つめるだけで何もしない。じっと自分たちの分身ともいえるキャラクターが食い荒らされる様を見つめる。その無残な有り様は、現実という怪物に怯える二人の将来を映しているようでもあった。
コントローラーを置き、良太郎はカーテンを開ける。
「やだっ」
弾かれたように小槙が小さく叫ぶ。
だが、窓の外には寝静まった住宅街があるだけだ。月の青白い光など、テレビ画面から溢れるそれに比べればささやかなものでしかない。カーテンを閉め切った部屋より多少は解放感が増したという程度でしかなかった。
けれど小槙は頭を抱え、ベッドに蹲ってしまう。
「小槙、まだ夜だよ」
良太郎が囁くと小槙は微かに顔を上げる。そして、窓の外へ視線を投げた。そこには星の光を圧し、煌々と輝く月がある。地上ではか細い光も真っ黒な夜空ではあまりにも大きく輝いていた。
ベッドの上に並び、二人は幼子のように窓際で月を仰ぐ。
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