夜よ、どうか明けないで (Page 2)

 部屋の外は真っ暗で明かり一つない。しんと静まり返った廊下には人の気配はないが、良太郎は慣れた様子で歩いていく。ちらりと後ろを見ると小槙が欠伸をしながら裸のままついてきている。もっとも彼も全裸なので人のことをとやかく言えない。

「おばさん、今日は帰らないんだよね」

「うん。今日も帰ってこない。仕事が忙しいらしいよ」

 目を擦り、小槙はなんでもないことのように答えた。それを見て彼も何でもない話題だったかのように振舞う。

「じゃあ、ゆっくりシャワー浴びれるね」

「うん」

 二人は明かりも点けず、バスルームまで辿り着いた。それはシャワーを浴びる間も同じであった。全く明かりを点さず、二人は暗がりを泳ぐように過ごす。

 衣服を身に着け、髪を乾かした二人は小槙の部屋へと引き上げる。

 良太郎がベッドに腰を下ろしてぼんやりしていると、小槙はテレビとゲーム機の電源を入れた。窓から差し込む月光を押し退けるようにテレビ画面が光り、良太郎と小槙の輪郭をなぞる。二人のかけた眼鏡が白く光りを反射し、お互いの表情を隠した。

 良太郎が動かずにいると、小槙がコントローラーを渡してくる。彼が無言でそれを受け取ると、小槙は隣に腰を下ろした。二人が揃って画面を見つめるなか、画面の中でゲームがスタートする。

 しばらくメーカーなどのテロップを眺めていたが、良太郎はゲームのスタート画面になったところで呟いた。

「なにやってたっけ?」

「えっーと、なんか街道を作りたいっていってなかったかな」

「そうだっけ」

 ゲームがスタートし、中断したデータを読み込んでいる間に小槙は答える。

 程なくして読み込みが終了し、ゲームがスタートした。二人が操作するキャラクターの前には鬱蒼とした森林地帯が広がっており、遠くには雪を頂く峰々が聳えていた。

「この前の大型アプデでなんか変わった?」

「うーん、わたしが触った感じはそこまででもないかな。色々とプラスされた感じだけど、やっぱオンライン向けが多かったし」

「オフでちまちまプレイしてる僕らには関係ないか」

 二人がプレイしているのは爆発的人気を誇ったサンドボックスゲームだ。リリースから十年近いが未だに根強い人気があり、多くのユーザーが楽しんでいる。

 部屋の中とは違い、快晴の空の下で良太郎と小槙は広大な世界を開拓していく。

 森林を切り拓き、住居を建て、狩りや農耕で糧を得る。

 現実とは正反対な生活を営んでいた。

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