夜のドライブ (Page 2)
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セフレには2種類ある。
最初からセックスを目的にして出会ったパターンと、友達だった相手とセックスするようになるパターンだ。
裕之と知佳は後者のパターンで、友人としての信頼関係を作った後でセックスしたので、まだ衒いのようなものがある。
中規模の金融機関に新卒の同期として一緒に入社した2人は、数週間の本部研修を終えて正式配属で同じ支店に配属された。
30名ほどもいる同期は、合同での研修を受けた後全て2人から3人に分けられてそれぞれの支店に散らばっていき、裕之と知佳は東京から離れたとある県庁所在地の支店に2人で配属されたのだった。
2人とも大学は東京で、地元も関東圏内だったのでしばらくは生活に慣れるのに四苦八苦した。
県庁所在地なので飲食店やコンビニも少ないほどの田舎ではないが、それでも公共交通機関はかなり不便で、若者も自分で車を運転して行動するのが当たり前という程度には田舎だった。
学生時代の友人も、家族もいない土地で新入社員として社会人生活を始めることは、それはもちろん負担が大きいことだった。
通常業務を覚えるのもやっとというところなのに新人は何かと雑務を押し付けられがちで、2人は常に疲労困憊の状態で最初の夏を終えていた。
仕事に関する疑問や不満など話題は尽きず、思い切り愚痴れる相手が互いしかいないということで2人はどんどん仲良くなっていった。
2人とも、相手を性的に見られないということもなかったが、そっちに関係が進展しなかったのは、仕事が忙しく恋愛する余裕が精神的にも体力的にもないからでもあり、裕之の方に以前から交際している彼女がいたからでもあった。
2人の、友人というより最早戦友とでも呼ぶべき絆にしっとりと性的なものが絡みついてきたのは、裕之が車を買ったタイミングだった。
「ストレス発散にドライブしよう!」の一言で2人は業務後の夜にドライブに出かけるようになった。
車内では変わらず仕事と上司の愚痴で盛り上がった。
2人だけの密室だから人に聞かれる心配もなく、愚痴は普段の倍以上に深いところまで到達した。
そうして週に1回くらいのペースで田舎の夜道を走るドライブをするようになって3回目に、事は起きた。
「俺、彼女と別れたんだよね」
「え、まじか」
例によって適当な無料駐車場に車を停めて、2人は会話していた。
「うん…」
「かわいそうにねえ」
半笑いで知佳が言ったのは、少し前から「もう無理っぽい」と女々しく裕之が訴えていたからだ。
「会えないなら意味ないってさー」
「遠距離はむずいね」
「あぁーあ、何やってんだ俺っ」
投げやりに、しかしどこかあっけらかんと裕之が言い放ったのを聞いて、知佳の口からつるりと出たのは
「慰めてあげよっか」
という台詞だった。
「…え、あ…」
裕之が言い淀んだのは、実際知佳をそういう風に見ていたからだ。
「えなに、冗談だよ?」
知佳の方も、半分は冗談であり、半分は本当に「慰めて」やりたい気持ちもあった。
「いや…知佳ちゃんに慰めてほしいわ」
思いの外ストレートにお願いされたことが知佳の欲望に火をつけて、そのまま車内で2人はセックスをした。
それから、2人のドライブは人気のない田舎道を仕事の愚痴を言いながら走って、最後に適当な駐車場に車を停めて車内で互いを貪り合う、というのが定番の流れになったのだった。
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