行きずり
ライターの甲斐田はある噂を確かめるため、都内某所へ入り込んでいた。そこでは一夜限りの行きずり相手と出会えるという。果たして噂は本当なのだろうか。甲斐田は都会のエアポケットのような場所へつい辿り着き……。
甲斐田(かいだ)は好奇心に突き動かされていた。
ネットで検索しても情報がひとつもない。もちろん、世界中のありとあらゆる情報がネットに共有されている訳ではないことを甲斐田も重々承知している。ライターとなって、取材であちこちを見聞して身に染みていた。
だが、情報は確かに存在している。
それも奥ゆかしくも口伝によって。
そう、口伝だ。今時の都市部で、そんなことがあるだろうか。誰もがスマホで簡単に写真や動画を撮影して消費してしまうこのご時世に。人も通わぬ山奥の集落で老人から昔話を聞き出すのとは訳が違う。
いわゆるアングラなネタだからこそ、知る人ぞ知る情報としてまことしやかに囁かれているらしい。そのように甲斐田が解釈し、確信できたのは最初に情報を教えてくれた人物から三人ほど遡ってからだった。
そこからさらに情報を辿り、少しずつ情報が輪郭を得ていった。
さらに輪郭をなぞり、感触を確かめるように歩を進め、曖昧だった情報が少しずつ形を得てくる。
そうして甲斐田が辿り着いたのは、都内某所。
周囲をビル群に囲まれ、再開発も著しい地だ。もっとも、その再開発の波もここ数年で落ち着いている。現在は洒落た街並みと、そこを闊歩する消費者の群れが街の新しい顔となっていた。
小綺麗に整理された表通りの喧騒に近づいたり離れたりしながら、街の裏側にあたる路地は様々な分岐しながら奥へと続いていく。そうやって立ち並ぶ店舗の裏側を覗き見るような路地を進むと、ある地点で足元に小石が積まれている。
なにか意味があるような思わせぶりな様子ではない。とても自然に、さりげなく積まれていて、余程注意深いか、あるいは存在を知っていなければ見つけることは難しいだろう。
積まれた小石はひときわ細い路地の入口の目印になっている。
路地に入るため、甲斐田は体を斜めにして肩を壁に擦りながら入り込んだ。
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