行きずり (Page 3)
振り返ってはならない。二つ目のこの空き地での決まり事だ。
そのままじっとしていると、背後の気配がベンチを回り込んでくる。甲斐田はじっとしたまま、祠の中にわだかまったひと際濃い闇を見つめ続けた。
ぎし、と音を立てて気配の主が彼の隣へ腰を下ろす。唱和するように甲斐田の心臓が脈拍を速める。呼吸も浅く早くなっていく。自分が恐怖によって緊張していることを彼は自覚した。そのせいで、三つ目の決まり事を実行できない。
誰かが隣に座ったら、目を閉じなくてはならない。
隣の何者かは微動だにしない。待っている。彼が目を閉じるのを。
汗ばんだ手を強く握り、甲斐田は目を閉じた。瞼の裏の暗がりは、やけに不安をかきたてる。
甲斐田はひとつ、ふたつ、と頭の中で数を数えた。少しでも落ち着こうと彼はしていた。
そんな彼を宥めるように、そっと温かな掌の感触が太もものあたりに乗る。感触は細く、女性のものだと分かった。掌はゆっくりと前後に動き始める。そのまま撫でられ、落ち着きを取り戻した甲斐田は自分が犬か猫にでもなった気分にさせられた。
強張っていた甲斐田の肩から力が抜け、代わりにあの話は事実だったという実感が腹の底へじんわりと満ちていった。
曰く――、
都内のある場所に行きずりの男女が一時だけの関係を持つ場所がある。
お互いの素性は決して詮索せず、顔すらも見ない。そんなふうにして情を交わすのだ。
一夜の相手と決めたらしく、隣に座っている女は甲斐田を撫でる手の動きを変化させる。動物を愛玩するような手つきから、男を弄ぶ淫靡なものへ。
内ももをなぞり足の付け根、性器の付近をくすぐるように愛撫する。迷いの中動きで女は甲斐田のジーンズのジッパーを引き下げた。するりと蛇のように隙間へ侵入し、女の指がついに甲斐田の素肌に触れる。冷たい感触だった。だが、しっかとり体温がある。その手が甲斐田の男根を夜気に晒す。
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