彼女はコーチを甘やかしてくれる選手

・作

僕がコーチをしている倉木川乃は聖母のような女の子だった。そして、競技者としての才能以上に、男を駄目にする甘やかし上手だった。そんな彼女が病気で休養になったとき、僕は荒れた。でもそんな僕を、川乃は持ち前のナイスバディで慰めてくれるのだった。こうして僕の童貞喪失は聖母のような彼女の手ほどきによって行われる―――

 倉木川乃のコーチになって一年が経とうとしていた。
 僕の指導というよりも、彼女の才能のおかげもあって、ジュニアからプロ入りして、あっさりとトップ選手の仲間入りを果たしていた。
 気が付けば、僕も新進気鋭の優秀なコーチの仲間入りである。
 しかし、二人の関係は出会ったころからかわらない。
 ゆるゆるとしており、本当にコーチと選手の関係なのかさっぱり分からなかった。

「コーチ、ありがとうございます。また成績が伸びましたよ!」

 そう言って川乃は僕の頭を撫でてくる。
 年下の女の子からまるで子供のような扱いを受けている。
 確かに身長が180近くある体格の良い川乃と、160に近い僕だと年齢が逆に見られても仕方はないのだけど。
 そして、こういう扱いを受けることを決して悪くは思っていない自分がいた。

「コーチと選手の関係が、こんなんでいいのかな?」
「結果が出ているんだから良いじゃないですか。それにコーチを甘やかすことが私にとってのご褒美なんですから」

 訳は分からないが実績が出ている以上、確かに文句を言うところではなかった。
 実際、口さがない者から添え物扱いされることはよくあった。
 しかしそのたびごとに川乃は頬を膨らませる。

「周りは全然分かっていないんですよ。コーチの才能は私がよく分かっているから良いんですよ」

 そう言って微笑む川乃だったが、
 果たして僕のどこにそんな才能があるのだろう。
 そもそも川乃は持って生まれた才能とそれを支える身体能力があった。
 どんなに優れた指導者だって、背を伸ばすことはできない。
 僕ができるのは、ケガをしづらいトレーニングメニューを造り、メンタルケアをするくらいだった。
 後はせいぜい川乃の邪魔をしない、それだけだった。

「それがちゃんとできる方はあまりいませんよ」

 そう言って川乃はよく僕を後ろからハグしてくる。
 全体的に筋肉質な彼女の唯一柔らかい部分が、僕の頭の上に乗っかってくる。

「川乃……、また大きくなったか?」
「もう、コーチったら……、Hになりました?」
「でっかいなあ……」

 よくそんなサイズで動けると思うが、試合中はスポブラで固定しているし、筋肉で支えているのでそこまで邪魔ではないらしい。

「そろそろ次の大会の準備をするけど、大丈夫?」
「はいっ! お願いしますね」

 そんな風に上手くいっていると思っていた。
 彼女の故障が発覚するまでは。

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