紅いレインコートのひと (Page 6)
「うああっ、もう一度出るっ」
叫びながら思い切り腰を引き、陰茎の先端がぎりぎり納まるぐらいまで膣から抜いた。そして、射精の衝動が促すまま蘇芳は女の子宮目指して男根を突き入れ、最奥で欲望を解き放つ。三度目の射精でありながら、蘇芳の生涯で悦楽の極みともいえるものだった。女の膣も蠢動し、精子を一滴たりとも逃さぬと子宮で貪っている。
「ああああっ」
女も蘇芳の射精に促されるように絶頂する。ぐうっと背を弓なりにしならせ、びくびくと痙攣した。痙攣が収まると板塀に付けていた腕を蘇芳の首に回す。
眼球のない虚ろが蘇芳を見据えている。
「あなたは、どんな味がするのかしら」
びぢっと音がした。
「えっ?」
女の口が文字通り裂ける。
びぢびぢと耳を覆いたくなるような肉の裂ける音がする。
喉笛に女が食らいついたことを蘇芳は数舜遅れて知覚した。声は出ない。痛みもない。ただ驚愕だけが快楽に蕩けていた脳髄に水のように流れ込んできた。
息を吸おうとしたが溺れているかのように上手くできない。ただ、裂けた蘇芳の首が壊れた笛のように微かに鳴った。
「ああ、あなたも違うのね」
女が肉を咀嚼し蘇芳から手を離すと、彼は崩れ落ちる。繋がったままだった膣から蘇芳のものが未だに硬度を保ったままずるりと抜けた。
「私の旦那様。私の美味しかった旦那様。あなたのような方とまた巡り合えるのかしら」
頬の肉が裂け、歯列を晒しながら女は歌うように呟く。
蘇芳の血が女に向かって飛び散り、レインコートの上を滑って落ちた。
どこからか子供の歌声が聞こえてくる。
あかいレインコート
あかいレインコート
ひとくいおには どこにいる
かたわれくった ひとくいおに
ななつまではかみのうち
おにのくちには はいりゃせぬ
唄を聞きながら女は事切れた蘇芳に覆い被さり、肉を貪る。
どれほど血がしぶいても紅いレインコートは染まらない。
蘇芳を食い尽くしたら、再び女は探すだろう。
二度と埋まらぬ虚ろを満たそうと、伴侶と同じ味の獲物を求めて。
(了)
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