青い薔薇の密猟者はその棘に気付かない (Page 3)
小さく吐息し、女は目を細めて微笑んだ。彼女の横顔に思わず三枝は見惚れる。乳臭いガキのようだと考えていたが、熟れかけの果実のような瑞々しい美しさがあった。
三枝は視線を手元のグラスに落とす。こんなガキ臭さの抜けない相手に女を感じる自分を心のどこかで恥じている部分があった。
反対に彼の記憶の中から浮かび上がってきたのは、上司の凛とした隙のない美貌である。お堅いキャリアウーマンを絵に描いたような人物だ。スーツを着こなし、男以上に仕事ができる。だが、三枝の胸中には恋心などという甘ったるい感傷はない。
そこにはどろりと澱んだ感情が泥のように横たわっている。
三枝は自分の感情から目を逸らすように、隣に座っている女へと視線を戻した。彼女は店主と話ながらちびちびと酒を口に運んでいる。アップにしている後ろ髪の下、露わになった項や耳がうっすらと赤みを帯びていた。
彼の視線に気づいたのか、女は笑ってみせる。縁側で微睡む猫のような緩い笑みだ。
体温が微かに上がったように三枝は感じる。胸が疼いた気がした。古傷が痛むような痛みを伴った感覚だ。その痛みを不快に思いつつ、三枝は女の身体を見る。
体付きはあまり悪くない。少々肉付きは薄いが、どちらかといえば引き締まっている印象が強い。
再びグラスを傾けた拍子に三枝の口の中に溶けた氷の欠片が飛び込んできた。それを噛み砕き、彼は内心で舌なめずりをする。
劣悪な環境にあっても自分磨きを怠らないような、そんな女が三枝の好みだ。しかし、それは恋愛対象としてではない。組み敷いて、小奇麗に整えた顔を恐怖や屈辱で歪ませてやる。それこそ最も三枝が興奮する瞬間なのだ。久しく女など抱いていない。自らの男根が鎌首をもたげるのを三枝は理性で押し止める。
仕事で忙しく女を見繕う暇もなかったのだ。それもこれも、人を見下した上司のせいだ。信用できないなどとぬかして、重要な業務やプロジェクトから彼を遠ざけた。
これまでのことを思い出すと三枝は腹の底からふつふつと怒りが湧いてくる。
「お兄さんどうしたの?」
物思いに沈んでいた三枝ははっと顔を上げる。酒のせいか、こんなことばかり繰り返している気がした。笑みを取り繕い、彼は口を開こうとして失敗した。その鼻先に嗅いだことのある匂いを突き付けられたからだ。
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