青い薔薇の密猟者はその棘に気付かない (Page 4)

「ほんとに大丈夫?」

 女が心配そうに身を寄せ、さらに匂いが強まる。

 柑橘系の爽やかな香りだ。ともすればトイレの芳香剤めいた安っぽい臭いになりそうなものだが、その香りは上品な深みを持っている。

 だが、何よりも彼を動揺させたのは、自らの男根だ。未だかつてないほどに膨張し、ズボンを押し上げてあまりの窮屈さに先端が痛む。がちがちに硬度を増し、今すぐに目の前の女を犯せと狂暴に唸っている。

 必死になって理性をかき集め、自分の股間を宥めつつ、三枝はようよう口を開いた。

「大丈夫。少し酔ったかもしれないけど」

「そう?」

 女は尚も心配そうに三枝の顔色を見ている。

 それを見て、彼も腹を括った。決めたのだ。この女を犯そうと。

 こんなにもの凶暴な気分になったのは初めてだ。女を犯したことはあっても、どこか他人事のような空々しさを感じてしまっていたというのに。

 だが、事を運ぶのにこんな場所では到底不可能だ。

 三枝は空になったグラスをコースターの上に置いた。女は尚も彼のことを心配そうに見ている。あまりにも滑稽な彼女の顔に笑い出しそうになるが、三枝は努力して柔らかい笑顔を作った。

「心配してくれて、ありがとう」

「どういたしまして」

 少し照れた様子で女は言ってから、またグラスに口をつけた。薄桃色の唇が透明なグラスに触れる。そんな仕草すら官能的に見え、三枝はあの口の中に自らの肉棒を乱暴に突っ込む様を想像して胸が高鳴った。

「さっき」

「えっ?」

 女がグラスから口を話し、三枝を見る。

「さっき、仕事を辞めたって言ってなかった?」

「そう、今日辞めてきたの」

 誇らしげに女が言う。

「実はオレもなんだ」

「そうなの……? いや、さすがにうそでしょ」

「本当だよ。オレも君と同じで職場に恵まれなくて」

「えぇー、うそくさーい。お兄さんって、仕事できそうじゃん」

「仕事ができたって、仕事が上手くいくとは限らないよ」

「何が違うの?」

 少し考えてから、三枝は話を続けた。

「『ブルー・ローズ』っていうサロンでオレは働いてたんだけど、周りが向上心のない奴らばっかりでね」

「勉強しろって言ったとか……?」

「そんなことじゃないよ、もっと利益を出せる方法があるんじゃないかって、提案しただけさ」

「会社が得するんだから、いいんじゃないの?」

「上司はそう思わなかったらしくてね」

 三枝はメモリーカードをスーツの上から軽く撫でた。

 現代社会で価値のあるもののひとつが情報だ。どのような情報であれ、それを欲し利用する者がいれば価値は生まれるのだ。馬鹿な奴らがその価値に気付かないのなら、自分が利用してやる。そう思って彼は行動に移した。

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