アプリ不倫 (Page 2)

「なおさん、ですか?」

上から声が降ってきて、慌てて奈央は顔を上げた。するとそこにいた男の身長は想像していたより随分高く、奈央はやや面食らった。

「あ、はい…こうじさん?」

「はい、今日はよろしくお願いします」

浩二は柔らかい笑顔を見せた。しっかり清潔感のある見た目と穏やかな声から優しそうな雰囲気を感じ、奈央は安心した。

30代前半と言っていたが、浩二は奈央とほとんど同世代くらいに見えた。幼なげな顔立ちと背が高いのに細めの体躯のせいだろうか。

「あの、大丈夫でしょうか?私で…」

「もちろんです!写真よりずっと綺麗な方でびっくりしてます。奈央さんこそ、僕OKですか?」

「え、あ、えっと…大丈夫です」

自分が実はすごく緊張していると奈央はこの時気が付いた。

「じゃぁ、行きましょうか」

浩二のスマートな誘導からは、明らかな慣れを感じたが、奈央は不思議とそれを嫌に思わなかった。
自分以外の女を抱いた夫の身体はあんなに不潔に感じたのにどうしてなのか、自分でもわからない。

 

直接ホテルに向かうことはメッセージのやり取りの段階で決めていた。
浩二は食事やお茶を提案したが、奈央の方が構わないからと断った。
飲食店に入る方が人目につく可能性も高いし、面倒な手順を踏みたくもなかった。

ホテルの選び方を見ても部屋の選び方を見ても、浩二はそういったことを安心して任せられる雰囲気があった。
広めの部屋に入ると、浩二はさりげなくエアコンの温度調整をして風呂の湯をため始めた。

ややこわばった身体をソファーに沈め、落ち着かない気持ちでそわそわしていた奈央の横に、少し距離をとって浩二が座った。

「寒くないですか?」

「あ、だいじょうぶ、です」

「緊張してます?」

にこやかな表情を崩さず、浩二が問いかけた。

「はい…こういうの、初めてなんで」

「そうでしたか」

「浩二さん、は、慣れてます?」

「ははは、そう見えますか?」

「いえ、あの…気を悪くされたならごめんなさい」

「大丈夫ですよ、実際仲良くしている女性は数名いますから」

あっさりと告げられ、奈央は呆気にとられてポカンとしてしまう。

「そうなんですか?」

「はい。ああ、もし奈央さんが抵抗があるようだったらこのまま帰っても構いませんよ」

浩二の振る舞いにはあまりにも余裕があった。ホテルの部屋にまで入っているのにこのまま帰って良いなどと言う男に奈央は今まで会ったことがなかったため、たじろぐと同時に深く興味が湧いた。

「…大丈夫です、メッセージで話した通り、避妊具さえ着けてくだされば」

「もちろんです」

にこやかに笑った浩二は、ぐっと距離を詰めてきた。
そっと奈央の手の上に自分の手を重ねると、奈央のやや俯きがちだった顔を覗き込むようにして近付く。
唇が触れるか触れないかという近い距離に戸惑いながらもドキドキしていた奈央の口元に、浩二の息がかかる。

「キス…しても?」

囁くように言われ、奈央は声が出せずに小さく頷いた。

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