ある事務職の甘い風景 (Page 8)

「仁美、仁美! くぅっ!」

「ああ、らめ、らめ! イく、もうイキそうなの! 一緒に、一緒にぃ!」

 仁美は自分の口から出たそんな台詞に、驚いていた。

 こんなこと、エッチなマンガや小説でしか言わないものだと思ってた。

 でも、言わずにいられない。

 不意に彼の肉槍の温度が上がり、また一回り大きくなる。

 お腹の外からでも分かるほど子宮が震え、彼のものを吸い上げる。

「ひ、仁美!」

「お願い、中に! 中にくらさい!」

 20代後半にもなったいい大人が、欲望に駆られて見境のない言葉を発していた。

 違う。彼の子供を産みたい。

 孕ませて欲しい。

「あ、かちゃん、欲しいのお!」

「仁美!」

 彼が力一杯といった感じで腰を突き上げ、仁美を支える机からぎしりと音がした。

 肉槍の先端が子宮を突き上げ、誰も触れたことのない奥までめり込む。

 仁美の心臓がドクンと跳ねた。

 同時に彼の肉槍の先端が膨らみ、火傷するほど熱い粘液が迸った。

 目の前でチカチカと火花が散り、真っ白になっていく。

「あ、ああ! んああ、い、イク! イクイクイクぅ!」

 気持ちいい。嬉しい。幸せ。

*****

「……あとはこっちでやるよ。やっぱり若川くんにやらせた方が正解だったね」

 古坂はそう言って、ちらりと俺の隣に立つ仁美に視線を送った。

 彼女はビジネススマイルを浮かべて、その視線に応えている。

「では古坂さん、もういいですか? 今日は他にもやることが――」

「若川さん、うちに戻る気はない? 君のポテンシャルはこんなもんじゃないだろう?」

「ありがとうございます。私を活かしてくれる場所なら、喜んで異動しますよ」

 そんな彼女の答えに、古坂の顔が明るくなった。

 俺はぎょっとして、二人の間に視線を彷徨わせる。

 彼女は新卒で入社したとき、希望して古坂の部署に配属された。

 だから古坂の下なら、今よりも彼女を活かせる仕事は多いだろう。

「そうか、では部長に相談させてもら――」

「ははは、冗談ですか? 私、褒められて伸びるんです。重箱の隅をつつかれたら、萎縮して死んじゃいますよ。実際、死にかけたし」

「え?」

「……田中さん、今日は招待状発送と電話です。四〇〇件くらいありますから、時間ないんですよ」

 きょとんとする古坂を無視して、仁美が俺の腕を引く。

 踵を返した瞬間、すっきりした表情でウインクした。

 逆に、古坂は苦しげに口を歪ませている。

 彼は仁美が心を病んで異動したことを知っているはずだ。

 仁美はそれを見越して嫌みを言った、ということだろう。

「古坂さん、何かあれば私と若川さんがフォローしますので、ご安心下さい」

 俺はそれだけ告げると、彼の答えを待たずに仁美を追って自席へ戻った。

 そこは、俺の恋人で優秀な部下である彼女が待つ、俺の城だ。

(了)

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