足止めの駅で

・作

台風の影響で新幹線が止まってしまい、地方の駅で足止めをくらった田村菜月。有給を使って趣味の一人旅をしていたが、最後に東京に帰るところで足止めされ、テンションが下がっていた。菜月は昔から、ワンナイトで男と付き合う癖があり、誘われれば断らずどんな男とも寝てきた。今回も最近気に入っているマッチングアプリを使って適当に男をひっかけようとしていた菜月だが、現れた永井康介は思いのほか好青年で…

すぽっ、すぽっと指をスマホの上で滑らせながら、田村菜月はとある地方の駅中のカフェでため息をついた。
今日中に東京に戻る予定だったのが、台風のため新幹線が運休になってしまい、帰ることができなくなっていた。

菜月は趣味でよく一人旅に出かける。
今回も3日間の有給休暇を取得してのんびりと北の方を回ってそれなりに楽しんだのだが、最後に東京に帰るという段階でこの足止めにはテンションが下がってしまう。

駅には、新幹線に乗る予定だった乗客がまだ残っている。
それぞれに困った様子で対策を考えているのが改札近くのカフェの窓からは見えた。
イレギュラーな事態になんとなく浮つく気持ちがないでもないが、やはり菜月の中では面倒な、煩わしいという気持ちの方が大きい。

旅行の際、菜月は必ず帰宅後1日は休みを取ることにしている。
それは言い換えれば、連休の全てを使って旅行の予定を立てないようにしているということだ。
だから今回も、今夜東京の自宅に帰る予定ではあったが明日出勤しなければならない訳ではないし、ひとまず今夜は駅付近で1泊と菜月は考え、こうしてカフェの中に入っている。
そして普段は影に潜んでいる悪癖が、菜月の指をスマホの上で滑らせ続けるのだ。

「あの、なつさん、ですか?」

上から声をかけられて、菜月はスマホを操作する手を止めて声の方を見上げた。

「コーさん?」

「はい」

声をかけてきた男の歯を見せて笑う顔は健康的かつ清潔感があり、久しぶりに当たりだな、と菜月は思った。

「ここ、いいですか?」

「どうぞ」

スーツ姿のその男は小さめのキャリーケースを脇に置いて菜月の向かいの席に座った。

「お仕事終わりですか?」

「はい、実は僕も今夜東京に戻る予定だったんですが」

「え、じゃぁ東京の方ですか?」

「そうなんです、今夜どうしようかなと思ってたところでなつさんを見つけて」

「そうだったんですね」

やってきた男、永井康介は東京から出張でこの街を訪れていた。
菜月と同じく今夜の新幹線で東京に帰る予定だったが、足止めされているのだ。

「それで…なつさん、早速なんですけど」

「はい」

「僕、どうですか?大丈夫そうです?」

「ふふふっ、全然大丈夫です、コーさんこそ、私で大丈夫ですか?」

「もちろんです!想像よりずっと素敵な方でびっくりしましたよ」

「そんなに気使わなくて大丈夫ですよ?でもありがとうございます」

初めて会って、数十秒で2人は笑顔を交わしていた。
そしてこの後数時間もすれば、身体を交わらせるのだ。

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