足止めの駅で (Page 4)

ふっと目が覚めた時、菜月は一瞬ここがどこだかわからず混乱した。
しかしすぐに状況を思い出し、自分がセックスの約束をしながら相手を放置して眠ってしまったことを理解した。

がばっと身を起こすと、部屋にあるソファーに座った康介の姿が見えた。
テーブルにノートPCを開いて何やら作業している様子だったが、菜月が起きたことに気付いたのか康介はこちらを見て笑った。

「起きました?」

「ごめんっ!私…寝て、た?よね?ごめん、え、今何時?」

「1時、過ぎたとこですかね」

慌てて謝る菜月に、康介はカフェで顔を合わせた時と同じ朗らかな笑顔を見せた。
ホテルに入ったのが22時過ぎてからだったから、たっぷり2時間眠っていたことになる。

「うわー…ごめん、本当ごめんなさい」

「いえいえ、なつさん疲れてたんですね」

「いや、あー…ごめんなさい」

「僕もそろそろ寝ようかと思ってたんです」

言いながら康介は、開いていた端末を閉じて片付けた。

「仕事、してたんですか?」

「はい、出張でこっちに来てたので、戻ってやるつもりだった作業をちょっとだけ」

「そうですか…」

自分が寝たことで雰囲気を台無しにしたので、これからセックスするかどうか確認しづらい。

「寝ます…?」

受け取り方が難しい質問をしてしまったと菜月は思った。
しかし康介の返答は早かった。

「あ、します?」

「え、あ、いや…」

笑顔のまま、康介はベッドの方に来た。

「コーさん、もうその気なくなっちゃったかなって…」

菜月は柄にもなくもじもじして俯くと、絞り出すようにそう言った。
するとベッドに自分も乗ってきた康介は、菜月の顔を両手でぐっと上げさせて困った顔で笑って言った。

「その気、ばりばりありますよー!」

ベッドの上で否応なく見つめ合いながら、急に縮まった距離感に菜月はドキドキしている。

「めっちゃ我慢してました!…でも、菜月さんにその気がないのにしても意味ないし」

苦笑いで、恥ずかしそうにそう言った康介が可愛らしく思えて、菜月は自分から康介にキスをした。

ちゅっと触れるだけのキスをして、驚いた彼の顔を至近距離で見ながら

「菜月っていうの。なつじゃなくて、菜月って呼んでほしい」

と言った。
康介は目を丸くして

「あ、僕は、康介です」

と言い、今度は康介の方からキスをした。
少し長めに唇を合わせてから離すと、菜月はとろんとした目で康介を見つめた。
自分が発情しているのがわかる。

「菜月」

「康介」

互いの名前を呼び合って、どちらからともなく吹き出した。

「今日は、恋人みたいなエッチしましょう」

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