出戻りねえちゃん (Page 2)

翔太と未智は、幼馴染だ。
未智の弟の修と翔太は同級生で、向かいの家に住んでいたので幼稚園に通う頃から仲が良かった。
5つ年上の未智は翔太にとって当時、随分年上のお姉ちゃんだった。

翔太が未智を性的な目で見るようになったのは14か15歳の頃で、その時5歳年上の未智は成熟した大人の女性に見えたし、凹凸のはっきりした体つきだった未智の見た目は多感な少年には刺激的だった。
性欲と恋愛感情がごっちゃになった激しい欲望を持った眼差しで翔太が自分を見ていることに、未智はもちろん気づいていた。
翔太が幼い子どもだったから相手にすることはなかっただけで、自分を慕う翔太をかわいくは思っていた。
当時それを嫌悪していたなら、幼馴染だからといってカラオケに2人で行こうと誘ったりしない。

未智が結婚したのは25歳の頃だ。
結婚式の二次会パーティーで苦々しい顔をしていた翔太のことを、未智は今でも思い出せる。
その結婚が失敗に終わろうとしている今、未智は、自分の一体何が悪かったのだろう、と思う。
夫が不倫していることに気づいたのは結婚してから3年目、その頃には夫婦のセックスレスは深刻と言えるレベルになっていた。
夫が自分のことは抱かないのに、会社の若い女と週に一度のペースでデートしてセックスしていることを知った時、未智は怒りのあまり目まいがした。
惨めで、悔しくて、苦しくて、泣き喚きたかったが、気持ちを押し殺して離婚のために準備を始めた。

ようやくすべての証拠を突きつけて弁護士越しにだけ夫と接するようになり、離婚に向けて形が整ったところで力尽きるように未智が実家に戻ったのが1週間前のことだ。
夫とのセックスレスに散々苦しんだが、こうなってみると子どもがいないのは幸いだったかもしれないと思う。
不倫する父親を持つ不幸な子どもはいなかったのだから。

久しぶりに翔太と再会したのは3日前で、近所のコンビニだった。

「未智ねえちゃん、出戻ったんだって?」

からかうような口調だったが、翔太の声は弾んでいた。
修からか、あるいは今も親交がある両親から聞いたのか、翔太は事情を知っていた。

「まだ離婚は成立してないけどね」

「そうなんだ?」

「でも後はもう、弁護士の先生にお任せ」

「大変だったんだね」

「まぁねー」

未智より4つ年上の夫と比較すると、25歳の翔太は若くはつらつとしていて、筋肉質な身体も白い歯を見せる笑顔も随分魅力的に感じられた。

「ね、翔太、カラオケ付き合ってよ」

翔太なら私を今も女として見てくれている。
女として見てもらいたい相手に無視された数年間、ずっと堪えていたものが噴き出して未智は思わず誘っていた。

「しばらく暇なんだよ、翔太いつ休み?」

「ああ…土曜日なら」

その時翔太の瞳に昏い欲望の炎が宿ったのを未智は見逃さなかった。
しかし、彼からの欲望にはこれまで一度も気づいたことがないという風を装ってあくまでさらっと誘った。

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